7月の中旬から8月のアラスカ、マクニール川には産卵のためにサケが戻ってくる。この時期のマクニール川には、川いっぱいに上ってくるサケを求めて、グリズリー・ベアたちがたくさん集まってくる。
ちょうど一年前のこの時期、サケを獲るクマの撮影のためにマクニール・リバー野生動物保護区を訪れていた。白夜のアラスカの長い一日の終わり、夜11時過ぎに太陽が地平線に沈もうとしていた。この日の夕焼けは格別に美しかった。遠くに見えるアリューシャン山脈が朱色に染まり、近くの海まで赤く輝いていた。長い撮影の一日を終えて、キャンプで一息ついていた時のことだった…。
キャンプ付近の入り江には、いつも数頭のクマたちがを歩いているのだが、この日はなぜか様子が違った。数頭のクマたち、よく見ると母親と2頭の子グマたちが近くの浜辺を勢いよく走り回る音が、あたりに響き渡る。走り回る音は延々と続いて、まるでクマの運動会が開かれているようだった。子熊たちはすでに1歳を超え、母親並みの大きさに成長していた。母親と過ごせるのもこの夏で最後、冬眠から目覚めた来春には自立を促されるのだろう。
どこからともなく、もう一頭の若いクマが現れ、親子に近づいてきた。そのクマと子熊たちはほとんど同じ大きさ、おそらくその若いクマは今春母親から追い出されたばかりなのだろう。まだ、一匹で生きていくのは心細くて、家族が懐かしいのかもしれない。子熊の兄弟に歩み寄り、徐々に距離を縮めていった。普通なら警戒心が強く、わが子を守るために攻撃心むき出しで追い返すはずの母親が、なぜかその若いクマの接近を許した。こんなことはめったにあり得ないと、レンジャーたちも驚いていた。2頭の子熊に、もう一頭が加わり、浜辺を走り回って遊ぶ姿を、母親は止めることなく見守っていた。
北の大地の長い夕焼けの下、一緒に走り回るクマたち…。
やがて、空は明るいオレンジから淡い桃色に代わり、夜の闇があたりを包みこんでいった…。夢のようなひと時だった。
アラスカのグリズリーの撮影を始めて早くも十数年、私のクマに対する情熱はまだ健全なのを再確認。
長々と続いたアラスカ、マクニール・リバー野生動物保護区からのブログも今回で最後、次回からはまた新しい記事を書きます。
さて、報告です。2年足らず住んだハワイを後にし、ついにアメリカ本土に拠点を戻しました。カスケード山脈と北太平洋の自然が美しい、ワシントン州に引っ越しました。シアトルの南に拠点を置き、今後、マウント・レーニアをはじめ、ワシントンやオレゴンなどの国立公園、海岸線などの風景や野生動物の撮影を行います。今後もどうぞよろしくお願いします!