2018年8月3日金曜日

アラスカ、 マクニール・リバー野生動物保護区⑦(McNeil River State Game Sanctuary)―夕焼けの下で


7月の中旬から8月のアラスカ、マクニール川には産卵のためにサケが戻ってくる。この時期のマクニール川には、川いっぱいに上ってくるサケを求めて、グリズリー・ベアたちがたくさん集まってくる。

ちょうど一年前のこの時期、サケを獲るクマの撮影のためにマクニール・リバー野生動物保護区を訪れていた。白夜のアラスカの長い一日の終わり、夜11時過ぎに太陽が地平線に沈もうとしていた。この日の夕焼けは格別に美しかった。遠くに見えるアリューシャン山脈が朱色に染まり、近くの海まで赤く輝いていた。長い撮影の一日を終えて、キャンプで一息ついていた時のことだった…。

キャンプ付近の入り江には、いつも数頭のクマたちがを歩いているのだが、この日はなぜか様子が違った。数頭のクマたち、よく見ると母親と2頭の子グマたちが近くの浜辺を勢いよく走り回る音が、あたりに響き渡る。走り回る音は延々と続いて、まるでクマの運動会が開かれているようだった。子熊たちはすでに1歳を超え、母親並みの大きさに成長していた。母親と過ごせるのもこの夏で最後、冬眠から目覚めた来春には自立を促されるのだろう。

どこからともなく、もう一頭の若いクマが現れ、親子に近づいてきた。そのクマと子熊たちはほとんど同じ大きさ、おそらくその若いクマは今春母親から追い出されたばかりなのだろう。まだ、一匹で生きていくのは心細くて、家族が懐かしいのかもしれない。子熊の兄弟に歩み寄り、徐々に距離を縮めていった。普通なら警戒心が強く、わが子を守るために攻撃心むき出しで追い返すはずの母親が、なぜかその若いクマの接近を許した。こんなことはめったにあり得ないと、レンジャーたちも驚いていた。2頭の子熊に、もう一頭が加わり、浜辺を走り回って遊ぶ姿を、母親は止めることなく見守っていた。

北の大地の長い夕焼けの下、一緒に走り回るクマたち…。

やがて、空は明るいオレンジから淡い桃色に代わり、夜の闇があたりを包みこんでいった…。夢のようなひと時だった。

アラスカのグリズリーの撮影を始めて早くも十数年、私のクマに対する情熱はまだ健全なのを再確認。

長々と続いたアラスカ、マクニール・リバー野生動物保護区からのブログも今回で最後、次回からはまた新しい記事を書きます。

さて、報告です。2年足らず住んだハワイを後にし、ついにアメリカ本土に拠点を戻しました。カスケード山脈と北太平洋の自然が美しい、ワシントン州に引っ越しました。シアトルの南に拠点を置き、今後、マウント・レーニアをはじめ、ワシントンやオレゴンなどの国立公園、海岸線などの風景や野生動物の撮影を行います。今後もどうぞよろしくお願いします!


2018年7月24日火曜日

アラスカ、 マクニール・リバー野生動物保護区⑥(McNeil River State Game Sanctuary)-マクニール滝の女王


アラスカ、マクニール滝には遡上するサケを求めて、たくさんのクマが集まってくる。特に滝の周辺のベストスポットには、体格のいい雄のクマたちが常に陣取っている。その中で唯一、「アイボリー・ガール」と呼ばれる紅一点の雌グマがいる。名前の由来は、象牙のような白い爪。ふつう、クマの爪は茶褐色から黒なのに、アイボリー・ガールの爪はきれいな白。歩き方も気品に満ちていて、オスたちも彼女に道を開けるほど。滞在中毎日滝に現れて、オスたちに交じりサケを獲っていた。美しいだけではなく、サケを獲る腕も滝で一、二位を争う。


アイボリー・ガールのお気に入りのスポットは流れ落ちる滝の真っただ中。下流をじっと見つめ、上ってくるサケを待つ。

急流を上ってきたサケが一休みする瞬間を逃さずに、素早くつかみ取る。近くの岩場に移動して、栄養分の高い頭と卵(イクラ)だけを急いで食べて、すぐにお気に入りのスポットに戻って、次の獲物を狙う。ほんの数分後、また魚を捕った。周りの雄たちが苦戦するなか、アイボリー・ガールは次々とサケを捕らえていく…。

体格のいいオスたちに交じって、サケを狙うアイボリー・ガール。

近くの岩場で一休み。なかなかの器用者?

アイボリー・ガールはガイドをはじめ、見学者の中でも人気者。数いるクマたちの中でも、彼女に焦点を当てて撮影することがついつい多くなってしまった。

次回はマクニール自然保護区からの最後の写真と記事になります。2~3週間後にまたチェックしてください。

2018年6月29日金曜日

アラスカ、 マクニール・リバー野生動物保護区⑥(McNeil River State Game Sanctuary)-クマのお昼寝


 7月のアラスカ、マクニール・リバー野生動物保護区は夏真っ盛り。生まれ故郷のマクニール川を遡上するサケ、そして川いっぱいのサケを求めて集まる野生のグリズリーで大混雑。ディズニー映画の「ブラザー・ベア」の世界そのままだ。滝の周辺では、サケを獲るクマ達や、獲ったサケを食べるクマ達、そして時には場所争いでいがみ合うクマたちでごった返す。

 そんな混雑の中で、堂々と昼寝をするクマもいるから驚きだ!どこからかやってきたこの体格のいいクマは、急流を渡り、川の真ん中にある岩によじ登ると、ゆっくりと寝ころんだ。サケを捕りに来たと思いきや、ものの数分で寝息をたててしまった。

 川の水にぬれることなんて気にも留めず、熟睡。寝返りを打ちながらも数時間眠り続けた…。

 他のクマたちがすぐ間近で獲物を捕っていても、まったく起きる気配もない…。
すぐ後ろで食事をするクマ達を気に留めることもなく、お昼寝続行中。 

いい夢を見ているような寝顔。

 数時間後、ごろんとあおむけになって、伸びをしながらやっと起き上がった。

 夏の太陽のもと、こんな騒々しいところで昼寝中のクマは他にもいた…。

 このハンサムなクマはお気に入りの場所でサケを獲って食べ、そのまま水の中で眠りについてしまった。

 体格のいいボス級のクマでも、眠る姿はなんともかわいい。

この大きなクマはこの日の食事に満足したのか、川を上がり、私たちの座っている丘に向けて登ってきた。私たち人間がまとまって座る見学エリアのすぐ後ろに寝ころび、そのまま気持ちよさそうに眠りについてしまった!ほんの数メートル先に、大型車ほどもあるクマが昼寝しているのだ。レンジャーによると、このクマは心配いらないそうだという。経験豊富なレンジャーたちは、個別のクマたちの性格などをよく認識している。それでも、この至近距離でクマが昼寝中というのは緊張ものだ。

次回もマクニール・リバー野生動物保護区にて撮影したクマたちの写真を掲載予定。2~3週間後ぐらいにまた訪れてください。


2018年5月19日土曜日

アラスカ、 マクニール・リバー野生動物保護区⑤(McNeil River State Game Sanctuary)-クマの闘争


昨年の7月、マクニール・リバー野生動物保護区を訪れ、川いっぱいに遡上するサケを求めて集まるクマたちを観察し、撮影を行った。獲物のサケが豊富なこの時期、いつもなら単独行動のクマたちも、マクニール滝周辺の急流に所せましと集まってくる。肩が触れ合いながらも、サケを捕って体に栄養分を蓄えることばかりに必死で、他のクマのことなどほとんど眼中にない。とはいえ、これだけの至近距離に複数の巨大なクマたちが集まるのだから、闘争は避けられない。

クマ同士の闘争はと突如として始まる。先ずは、一方が口を半開きにしてうなり声をあげる。それに応えるかのようにもう一方もうなり声上を上げる。にらみ合い、うなり合いの緊張が続く…。

一方が闘志を表し前進。大半の場合はもう片方が身を引くことでその場は収まることが多く、肉弾戦になることはあまりない。ほとんどの場合、闘争は一瞬にして終わる。ほんの数週間の短いサケのシーズンに時間や体力を無駄にしたくない、一匹でも多くのサケを捕まえて食べ、長い冬眠の季節に向けて準備をすることのほうが大切なのだ。

一方、滝の下流では2頭の若いクマたちが取っ組み合っていた。本気ではなく、半分遊びといった感じで、うなり合い、噛み合う。

本気の争いとは違って、遊び交じりの喧嘩は数分間も続いた…。

この2頭のクマたちはその日の間に、取っ組み合いを何回も繰り返していた。

一見遊びのように見える闘争だけど、将来の権力争いに向けてのスキルアップにつながる大切な練習なのだ。

巨大な優勢グマに追われて逃げる若グマ。

数十頭にも及ぶクマ達を観察していると、体の大きいクマたちの体には必ずと言っていいほどいくつかの傷がある。この先、この若いクマたちにも、数々の試練が待っているのだ。

次回に続く。


2018年4月12日木曜日

アラスカ、 マクニール・リバー野生動物保護区④(McNeil River State Game Sanctuary)-クマの親子


 グリズリー・ベアの撮影のために、マクニール・リバーを訪れた。アラスカは夏の真っ盛り、川いっぱいに遡上してくるサケを求めて集まる巨大なクマたちの繰り広げる自然のドラマは興味深いけれど、今回は滝から少し離れて、マクニール・リバーの河口付近に集まるクマの親子たちにスポットライトを当ててみたい。

 数年にわたる長旅を終え、生まれ故郷のマクニール川に再び戻ってきたサケたちは、産卵に向けて川を登る。河口に広がる浅瀬を通って、急流に挑む。マクニール河口の浅瀬は、子グマを連れた母グマとまだ若いクマたちにとって最適なのフィッシング・スポットだ。

 サケの遡上のピークシーズンの真っただ中、この浅瀬にも複数の親子グマたち、まだ若い小柄なクマたちがたくさん集まって、それぞれの方法でサケを獲っていた。まだ幼い子熊を連れた母親は、子熊たちを崖下の岸に残して、獲物を追って水しぶきを上げていた。子熊たちはまだまだ遊び盛りだ。

もう一組の親子グマが近づいて来た頃から状況が一変。警戒した母グマは2頭の子熊を率いて、私たちのいる崖のほうに歩きだした。避けようにも、崖と水辺の間には、ほんの数メートルの岸があるだけ。親子グマたちはこちらに早足で向かって来る。動くな、というガイドの指示通り崖に凍り付く私たちの横目に、小型車ほどもある母グマが何事もないように通り過ぎていく。子熊1頭がこちらに興味を持って近づいてきたところを、ガイドがシッシッと追い払った。親子はそのまま湿原の中に消えていった…。

 別のクマ一家。こちらは3頭の幼い子熊を連れていた。

 この浅瀬の岸辺を歩いてマクニール・リバー滝に向かうため、この親子グマたちには滞在中毎日のように遭遇した。捕らえたサケをくわえて岸辺に向かう母親のもとに集まる子熊たち。さすがは成長盛り、ほんの数分で見事に平らげてしまった。

 すぐにも次の獲物を求める母グマをしり目に、子熊たちは遊びを再開。絶好の撮影チャンスだけど、逆光には泣かされた…。

こちらは草むらで遊ぶ別のクマ一家。

滝でサケを捕るクマたちの豪快なアクションもいいけど、個人的には子熊たちの撮影が好きだ。

次回は、再びマクニール・リバー滝より、巨大なクマたちの闘争シーンを掲載予定。2,3週間後にまたチェックしてください。