今年の7月、アルプスの撮影にヨーロッパへ出かけた。アルプスの最高峰・モンブランを撮影するために、ツール・ド・モンブランという有名なトレイルを、カメラ機材一式背負って、約170キロほど歩いた。このトレイルを、フランス・シャモニーの南、レ・ズーシュの街から出発すること4日目、悪天候の続くなか、フランスからイタリアへの国境を越えた。
4日間降り続いた雨がついに止んだ。雨具なしで山小屋を出て、バル・べニの谷へ向けて山道を下っていく。
日の光が雲の隙間から、山々を照らし出した。谷中に広がる新緑が輝く…。
この谷にはため息の出るような絶景が続いている。トレイル沿いには鮮やかな花畑が広がり、小さな湖はモンブラン山脈の岩肌を鏡のように映し出している。アルプスの美しさを凝縮したようなこの谷は、写真家の夢、一日中撮影を続けても飽きることがないだろう…、ただしもう少し天気が良くて、背景に青空が広がればの話だが…。
トレイルは谷を離れて、急な登りとなった。登りきったところから、谷を見下ろす崖沿いにトレイルが続いている。深い谷の対岸にはモンブラン山脈がそびえ、数々の氷河が岩肌を流れ落ちている。素晴らしい絶景のはずなのだが、灰色の雲が再び空を覆い、今にも雨が降り出しそうな暗さだ…。このツール・ド・モンブランを歩き始めて以来、天気には恵まれていない。撮影の機会を逃し続けている…。
やっぱり雨が降り出した。降り出した、と思ったら一気に土砂降りになった。クールマイヨール(Courmayeur)の町に向けて、急下降するトレイルを、滑りながらひたすら下る…。木々の間から、街が見えてきた。
クールマイヨールは久しぶりの賑やかな街だ。街の中に入ったとたん、まるで中世の時代へ来てしまったかのような、錯覚を覚えた。このドローン(Dolonne)と呼ばれる一角は、石造りの建物に狭い路地、歴史を感じる小さな教会、道のすべてが石畳…という、古くて魅力的な雰囲気を出していた。時間を変えて、何度かこの一角に足を運び、撮影を行った。
こちらは、クールマイヨールの中心街。観光客の集まるモダンな一角だ。ここはイタリア側モンブラン麓の街、フランス側のシャモニーとは一味違う。
(ツール・ド・モンブランの撮影記は次回に続きます。)