アルプスの最高峰・モンブランを一周するツール・ド・モンブランのトレイルを撮影しながら歩く旅もすでに後半を迎えている…。スイスアルプスの小さな村・トリエンを出発し、森の中のトレイルを峠に向けてひたすら登る。幸いにも、晴天が続いている。森が開けて、お花畑の広がる高原に出た。スイス―フランス国境のあるバルム峠(Col de Balme, 2,195m)が見えてきた。バルム峠の向こうにはフランスのシャモニーが待っている。旅の終わりが近づいていることを感じはじめた。シャモニーの南、レズーシュを出発して10日あまり、すでに130キロ以上歩いてきた。
バルム峠に建つ山小屋が見えてきた。そして、その向こうには、シャモニーの谷を挟んで、白い巨峰・モンブランが出迎えてくれた。スイスに入ってからずっと姿を隠してきたモンブランが、再び姿を現した。
フランスに入ると後はずっと下り坂、野草の咲く高原が続いていたのだが、曇り空の下では美しい風景もどこかさびしそうだった。その日の宿のあるシャモニー北部の小さな村、トレレチャンプ(Tre-le-Champ)に着く頃には、雨が降り出していた。
トレイル終盤はこの旅の、そしてモンブラン撮影のハイライトとなるはずだった…。ローグ山脈の高台に登り、シャモニーの谷を見下ろしてモンブラン山脈を真正面に眺めながら歩くという3日間になるはずだったのだが…、一晩中雨が続き、翌朝こそ止んでいたものの再び降り出し、森が開き岩場に出る頃には、文字通り土砂降りになった。
土砂降りの中、鉄のはしごで垂直の岩肌を登ることになった。ガイドブックで何度も読み返した、このはしごをまさか、こんな悪天候で登ることになるなんて、予想外だった。雨にぬれて滑りやすいはしごを一段づつ確かめながら上る…。カメラ機材の入った重いパックが肩に食い込む。もしも足を滑らしたら、谷底まで真っ逆さまに落ちていく。辺りには人気がなく、転落しても誰も気づくことがないだろう。
はしごの真ん中でなぜか視線を感じた。なんと、手の届きそうな岩場にアイベックスが立っていた。アルプスの岩場に住む野生の山羊だ。大きな丸い目がこちらを見つめる。目が合ってしまい、見つめ合うこと数秒間…。またとない撮影のチャンスなのだけど、カメラは背中のパックの中。垂直岸壁のはしごの上で、土砂降りの中、パックを下ろしカメラを取り出すなんて、自殺行為だ。ポケットに入っていたコンパクトカメラで数枚スナップするのがやっとだった。そんな訳で、この写真の質が劣ることは許していただきたい…。
いくつかのはしごを登ると、トレイルはオープンな岩場に続いていた。激しい雨が続く中、山小屋への道を急いだ。雨は一晩中続き、さらに2日間、ほとんど休みなしで降り続いた。この3日間は、モンブランが一番美しく見えるはずだった…。撮影時間を考慮して、日々の移動を短めに取り、撮影にじっくりとりかかる予定だった。モンブランが夕日に赤く染まる姿をとらえるために、通常より1泊余分に計画していた。ところが、重たい雲と霧がシャモニーの谷を埋めつくし、モンブランは雲の中に隠れてしまって、3日間全く姿を見せてくれなかった。上の写真は、トレイルから最後に見たモンブランとシャモニーの街…。
トレイル沿いにあった遺跡が灰色の空の下、物悲しく見える。雨と霧の中視界が悪く、トレイルの分岐点を見逃してしまい、気が付いた時にはすでに3キロ以上も別のトレイルを歩いていた。雨の中、重いパックを背負いながら、往復で6キロ以上も余計に歩いてしまった。
ツール・ド・モンブランを歩き始めて15日目、ついに出発点のフランス・レズーシュ(Les Houches)に戻ってきた!約170キロのモンブランを一周する旅が、終わった。
翌日、シャモニーに戻ると、太陽が顔を出した。
シャモニーにある中世の教会。
シャモニーを発つ前日、夕日に照らされたモンブランと氷河。
次回も、シャモニー周辺のアルプスの写真を掲載予定。ぜひ見てください。