アンカレッジを出発し、デナリ国立公園、フェアバンクスを通過して、北へ向かう。この時期のアラスカらしくあいにくの雨。ユーコン川を渡って、北極圏に入るころには雨がますます激しくなってきた。雨の中でのキャンプ設置。翌日も一日中雨の中、ダルトン・ハイウェイをブルックス山脈に沿って北上した。薄暗い空の下、人里から離れた未開の原野は、どこか寂しげな雰囲気だった。北極圏内に入ると、まだ8月半ばだというのに周りはすっかり秋の気配、ツンドラが黄色から赤に鮮やかに紅葉していた。北極圏の扉国立公園に着くころには、土砂降りになり、気のせいかあたりは陰気な暗さに包まれているようだった。
一晩中降り続いた雨が昼近くになってやっと止み、数日間のバックパッキングに向けて最終準備を行う。ダルトン・ハイウェイから出発して、冷たい川を渡り、急な斜面をひたすら登る…。トレイルのない自然のままの山道を、やぶをかき分けながら登るのだ。重いパックが肩に食い込み、連日の雨に濡れた下生えを滑りながら、やっとのことで平らな尾根まで登ると、正式に北極圏の扉国立公園内に入った。平らな尾根といっても、一帯は雪解け水の湿地になっていて、歩きづらい…。またしても雲が尾根をおおい始めた、と思ったら急に夕立のような雨。雨具を取り出して、パックにカバーをかけていると、雨は大粒のひょうに変わった。しばらくして太陽が出現、雨の中青空が顔を出し、虹まで架かった。変わりやすい天気が青空に落ち着くころには、足場の悪い尾根の湿原を渡り終えた。反対側のコユックトゥヴュック川まで下って、河原にキャンプを設置した。トレイルのない原野を重いパックを背負って歩くというのは、想像以上に時間がかかった。
翌日は、ほとんど曇り空といえども、雨が降っていないだけでも嬉しい。撮影機材の入ったパックのみで、コユックトゥヴュック川沿いを探訪する。ツンドラの丘は見事に紅葉しいて、赤、黄色、オレンジのパッチワークになっていた。雲の間から日が差すと、ツンドラの紅葉はさらに鮮やかになった。
ツンドラの丘にドールシープの頭骨を発見。この極北の原野は一番近くの村からも数百キロ、当然ながら携帯電話も通じない。万が一怪我でもして動けなくなっても助けを呼ぶ手段どころか、行方不明になっても、発見されるまでいったい何年かかることだろう…。
翌朝、目覚めると辺りの山は雪に覆われていた。前日に越えてきた尾根もすでに真っ白。キャンプの周りの河原だけは標高が低いため、まだ雨だった。まだ8月半ばなのに、すっかり冬景色に変わっていた。予定を切り上げて、キャンプをたたみ、引き返すことに決定。雨の中の荷物をまとめ、ツンドラの丘を登る…。雨に濡れたツンドラの急な山道を滑りながら登って、尾根に近づくと、雨が雪に変わり寒さが増してきた。尾根一帯はすでに雪が積もり、湿地帯も雪の下に隠れてしまっていた。当然ながら、靴も靴下も濡れて、さらに容赦なく雪が降り続ける。ある意味では美しい風景なのだけど、この状況を抜け出すためにはひたすら歩くのみ、撮影をする気にはなれなかった。
尾根を横切って、山の反対側に出るころには雪がやみ、天気が回復してきた。急な斜面を降るころには、雲の切れ目から太陽の光が降り注ぐ。やっとカメラを取り出し、撮影を行う。無限に続く険しいブルックス山脈と氷河によって削られた谷、その谷を貫く一本の道(ダルトン・ハイウェイ)とパイプラインが一望に見えた。この極北の大地は美しい半面、厳しい自然の顔も合わせ持っているということを実感する旅だった。
北極圏から、数枚。
ダルトン・ハイウェイのサイン。
ユーコン川での夕焼け。
ゴールドラッシュの開拓地・ワイズマン。古い丸太小屋の建物が残る…。
これを書いている11月の初旬、アンカレッジも例年どうり雪の季節がやってきた。これから半年近く、長い冬が続く…。さて、次回もアラスカからの写真を掲載予定。1,2週間後にぜひこちらをチェックしてください。