真冬のアラスカの長い夜を飾るオーロラの輝きはよく知られているが、極北の冬にはもうひとつの美しい光の世界がある。一日わずか3-4時間だけ差す淡いピンク色の日の光だ。
1月中旬の日の出は午前10時半頃…。地平線のほんの少し上にゆっくりと時間をかけて顔を出した太陽は、南東の空をネオンピンクに染めて、反対側の雪山をバラ色に照らし出す。地球上のほとんどの地域ではほんの数分にすぎない朝焼けの瞬間が、極北の地では延々と続く。地平線上にとどまった太陽は、そのまま地平線をかすめるようにゆっくりと動く…。北西の山の頂上を照らすバラ色の光は、3-4時間かけてゆっくりと北東の峰に移動していく…。午後3時半頃、太陽はそのまま地平線を離れることなくゆっくりと沈んでいってしまうのだ。アラスカ内陸、滞在中のフェアバンクス郊外では11月中旬から直射日光が差さずに、長い朝焼けから長い夕焼けだけの短い一日が終わる…。夢のような長い朝焼けの時間は、写真家にとってはありがたい時間だ。
厳冬のアラスカでの撮影は、なかなか厳しいものがある。なにしろ零下30度を下回る寒さの中では、防寒服に身を固めているから、身動きがとりづらい。三脚は氷のように冷たいし、厚い手袋をはめてカメラをセットするのはなかなか至難の業だ。やっとのことで準備を終え、撮影に入って10分もすると、足の先が寒さで痛み出してくる。フィルターを支える指が、手袋の中にもかかわらず凍えだす…。カメラや三脚が霜で覆われてしまう。足踏みをして何とか持ちこたえようとするのだが、寒さは増すばかりだ。早急に撮影を切り上げ次の場所へ移動する。
こんなに厳しい寒さとはいえ、極北の自然の見せてくれる美しさには特別なものがある。