2011年6月23日木曜日

星野道夫のトーテムポール

南東アラスカ、シトカに来て3日目、相変わらずの曇り空だ。天気の回復を待っていても仕方がないから、ハリバット・ポイント州立公園へ向かった。幸い雨は止んでいて、海岸線に茂る深い森を歩く…。視界が開き海へ出た。海岸沿いのトレイルを歩いていると、ついに星野道夫のトーテムポールが視界に入ってきた。
苔むした深い森を背にし、海のほうを向いて立っているポールは、立てられてまだ3年弱だというのにすでに風化し、シトカ国立歴史公園で見た古いポールのような風格が出ていた。一番下の人物がカメラを持つ星野道夫氏で、その上が彼が追い続けていたワタリガラス、カリブー、クジラ、そして頂上に立つのが生前出会うことができなかった伝説的なブルー・ベア。

10年前、初めてアラスカに来てデナリでひと夏をすごして以来、星野道夫の作品に以前に増して目を向けるようになった。自然写真を始めてからは、尊敬する人となった。アラスカ在住の作家によって書かれた本の中に、何度か星野さんのことが登場していた。昨年はグレーシャー・ベイ国立公園で星野さんの友人にも出会った。
”君は日本人か?星野道夫を知っているか?”シトカについた翌朝、宿泊先にひょっこり現れたのが、星野さんの友人で、星野さんの本にも度々登場するボブ・サムだった。現在アイヌの人たちの権利を確立する仕事をしていて、6ヶ月間の滞在を終え日本から帰ってきたばかりだという。東北地方太平洋沖地震のあった日には東京にいたという。この、ボブこそが星野さんとトーテムポールを立てた発起人なのだ。

シトカに来て星野さんのトーテムポールを訪れるというのは、まるでお墓参りに来たような気持ちになった。星野さんのポールの立っているところからは、シトカ海峡に散らばる森に覆われた島々、そしてその向こうにそびえる富士山に似た山、マウント・エッジカムが見える。灰色の雲の下、神秘的な雰囲気の漂う場所だった。
街へ戻ると、コーヒーショップでボブにばったり会った。その後、小さな港の向かい側にある歴史的な建物を撮影していると、後ろに古びたトラックが止まり,”ヘイ、ミチオのトーテムポールを見てきたかい?”と顔を出したのは、星野道夫のトーテムポールを彫った彫刻家のトミー・ジョセフだった。まるで、星野さんのトーテムポールを訪ねることが引き起こした偶然のような不思議な出会いの数々…。まるで私がそこに来ることを知っていたかのように、自然に出迎えてくれたかのような出来事だった。