2011年5月15日日曜日

シトカ・南東アラスカで最も美しい町

霧に包まれたフィヨルドの海峡をフェリーはゆっくりとシトカに向かって進んでいく…。深い森に覆われた島々が通り過ぎていく…。緑が多く、氷河を抱く険しい峰がそびえるアラスカ南東部は特に好きな場所だ。アラスカで最も美しい町といわれているシトカへの旅が始まろうとしている。
南東アラスカでも大きな島のひとつ、バラノフ島の太平洋岸に位置するシトカはアラスカ州の州都ジュノーから約150キロ南なのだが、南東アラスカの他の例にもれず道路はつながっていない。そのため空路かフェリーで向かうことになる。この一帯は氷河によって削られた複雑に入り組んだ地形をしている。また雨が多い気候のため、苔むした深い森が一帯を包み、森は海岸線すれすれまで伸びているのだ。緑の森の後ろには雪山が空に向かってそびえ立っている。

シトカはアラスカでも屈指の歴史を誇る町でもある。1799年、ロシアがはじめてアラスカに入植したのもここシトカなのだ。アメリカ政府にアラスカ州が売却されるまで、ロシア領アラスカ首都として栄え、1867年にアメリカ準州となってからも、ジュノーに移転されるまで40年間州都を務めた。現在でも街の所々にロシア時代のからの古い建物が残っている。1800年代の後半に日本から開盛丸という船が流れ着いたという歴史もある。また、シトカにもアラスカ先住民クリンギットの文化が根強く残り、街中や海岸などに立つトーテムポールからも南東アラスカらしさを感じられる。

5月初旬のシトカはやっと春の始まり…。雪はすでに解けていたものの、まだ枯れ草が台地を占める。新緑が少しづつ顔を出し始めてはいるけれど、滞在中は毎日重い雲が垂れ込み、雨の日も多く、どことなく気分が重くなってしまった。それでも、毎日シトカの自然の中を歩き続けた。
深緑色の森の中のトレイルをひたすら登り、まだ雪の残る山の頂上に出た。頂上付近の稜線には乾いた苔の垂れ下がる美しい森が春を待っていた。木々の間から入り組んだ海岸線と無数に散らばる島が見えた。頭上には数羽のハクトウワシが舞う…。対岸にも険しい雪山が空に向かって一直線にそびえていた。
冬の間をアラスカ内陸のフェアバンクスで過ごし、半年振りに訪れた南東アラスカの深い森の中を歩いていると、気候の違う内陸部では感じられなかった神秘的な気持ちになる。苔むした巨木に囲まれながら海風を感じる…。森の奥からワタリガラスの甘い声が響く。曇り空の下、海に面して建つ色あせた家々…、南東アラスカ特有の風景だ。湿原から海岸線まで、霧雨の中歩き回った。
シトカの対岸にそびえるマウント・エッジカムは“シトカ富士”と呼ばれているらしい。

(次回に続く…)