2015年12月4日金曜日

失われた湖 ‐ アラスカ州キナイ半島、ロスト・レイク


 アラスカ最大の都市、アンカレッジから車で20分も走ると、辺りはすでにアラスカ原野の風景に変わる…。特にアンカレッジを取り囲むチュガッチ山脈には、険しい岩山から湿原、無数の湖と渓谷、変化にとんだ絶景が続いている。ここ2、3年ほどチュガッチに散らばるトレイルを丹念に歩き、季節を変えて撮影を続けてきた。特に、今年2015年の夏は天候にも恵まれて、雪解けも早かった。アンカレッジから南のキナイ半島の風景は特に美しく、何度訪れても息を飲むほどの絶景に出会う。

6月中旬、キナイ半島北部のチュガッチ国有林へカメラ機材を背負ってキャンプに出かけた。この時期のキナイ半島は緑に覆われ、色鮮やかな野草とともに白夜の夏の訪れを祝っているかのようだった。トレイルを登っていくと、森が開けて高原に出る。標高が高くなるにつれて、季節が夏から初春へと逆戻り、目的地、ロスト・レイクの周りにはまだ雪が残っていた。想像以上に大きいロスト・レイクはまだ大部分に氷が残っていた。湖面に浮かぶ氷の表面が日差しを浴びて輝いていた。湖畔にキャンプを設置して、撮影を始める…。陽がゆっくりと傾き、対岸のリザレクション・ピークスを照らし、辺り一面をオレンジ色に染めていく…。北緯度の高いアラスカでは、特にこの時期、日没の時間がとても長い。夕焼けの風景を撮影するのには、大変ありがたい。

 残念なことに、これからまさに赤く染まるはずの夕日が、対岸にそびえる峰の向こうに隠れてしまった。というわけで、撮影に適した場所を求めて、湖の周りを歩く。こちらは、少し高めの場所から湖を見下ろす丘にて撮影。陽が沈んだ後も、黄昏の時間が2時間ほど続いた。

 翌日も快晴。青空の下、峰と湖が白く輝く。

 こちらは、ロスト・レイクの別の場所で撮影した夕焼け。ロスト・レイクの風景が大変気に入ったので、数週間後に再び訪れた。ロスト・レイクは大きいだけではなく、形も入り組んでいるから、場所が変わると景色も全く変わって見える。数週間の違いが、季節の違い。この時期は日照時間が20時間以上もあるから、太陽の光を浴びて植物はあっという間に成長する。湖は完全に溶けて、湖畔は新緑と野草に覆われていた。

 陽が沈み、曇り空が薄暗くなり始めたころ、空が鮮やかなピンク色の光に包まれた。日没が終わり、撮影機材をたたんでキャンプに戻った後だ。淡い桃色の光が強さを増し、雲を見事なピンクに染め上げた。まるで魔法に包まれたかのような出来事だった。急いでカメラを設置し、キャンプ近くの湖畔で撮影を再開、第二の夕焼けは短かったけど、劇的だった。

 湖の近くに住むマーモット。

 キナイ半島は特に野草の花畑が見事だ。6月中旬、ロスト・レイクの周辺はまだ野草の季節の準備中、ルピナスもまだ新芽とつぼみだった…。

自然の芸術!

数週間後にはルピナスの花畑が広がっていた。         

アラスカは短い夏の間に最も美しく輝く。ただ夏は本当に短い。これを書いている12月現在は、真冬で陽が短く、朝10時過ぎまで真っ暗、夕方4時前には陽が沈んでしまう。しかも連日の曇り空で、灰色の日がすでに2,3週間続いている。この真冬のアラスカを抜け出し、来週から2週間ほどハワイ、カウアイ島へ撮影に出かける。自然の美しいカウアイ島、ナパリ・コーストが今回のハイライトだ。次回のブログは…3週間後に更新予定。気長にお待ちください。



2015年11月25日水曜日

初雪! アラスカ、チュガッチ山脈


 9月中旬、アンカレッジ周辺はまだまだ秋、今年は温暖化の影響なのか春の訪れがひと月ほど早かったけど、秋も長引いていた。まだまだ紅葉の真っただ中、北部にそびえるチュガッチ山脈の頂上に薄っすらと雪が積もった。この季節の雪は、アラスカ中南部に夏の終わりを告げる、と言われている。あとひと月もすると、大地は雪に覆われて、アラスカ全土に本格的な長い冬がやってくる…。

 チュガッチ山脈の一部、ランディヴ―山頂に登頂。紅葉で赤く染まるチュガッチの山麓と谷に、真っ白な雪が対照的で美しい。

 ランディヴ―尾根に積もる雪。

 山を下ると、秋の色に輝くツンドラの藪が雪の間から顔を出していた。

 つららの中に閉じ込められた、黄色の葉。

 山腹部はまだまだ秋。沈みゆく日の光を浴びて、黄金色に輝く木々。

 紅葉の木々と雪化粧をしたチュガッチ。

 夕日に照らされてバラ色に染まる山脈。山裾はまだ紅葉中。

 例年通りの10月下旬、ついに雪が地面に到達。長い冬が始まる…。これより半年ほど雪景色が続く。11月下旬の現在はさらに日が短くなり、相変わらずの雪景色が続いている。

 さて、次回は夏の間に撮影した写真を掲載予定。1,2週間後にチェックしてください。



2015年11月10日火曜日

8月の紅葉‐アラスカ・北極圏の扉国立公園 (Gates of Arctic National Park & Preserve)

 8月中旬、夏の終わりの気配を感じるアンカレッジからさらに北へ北上し、北極圏を越えて、ブルックス山脈沿いの広大な原野、北極圏の扉国立公園をめざした。この北の果てにある国立公園に初めて足を踏み入れて以来、すでに3年が経っていた。前回もブルックス山脈を越え、北極圏の扉国立公園内にて数日間を過ごしたのだが、今回はさらに公園内を奥深く探求して、雄大な自然の姿を多くの写真に残したいと挑んだ。北極圏の扉国立公園は、国立公園といえども、観光設備などは全くなく、園内に道路さえ通っていない。スイスの面積に匹敵する未開の自然が、人里離れた極北の地に、自然保護区として広がっているのだ。当然ながら、訪れるには事前の綿密な調査と計画、バックカントリーでのスキルなどが必要だ。ここを訪れる旅人はほんの一握り、短い夏の間に限られる。

アンカレッジを出発し、デナリ国立公園、フェアバンクスを通過して、北へ向かう。この時期のアラスカらしくあいにくの雨。ユーコン川を渡って、北極圏に入るころには雨がますます激しくなってきた。雨の中でのキャンプ設置。翌日も一日中雨の中、ダルトン・ハイウェイをブルックス山脈に沿って北上した。薄暗い空の下、人里から離れた未開の原野は、どこか寂しげな雰囲気だった。北極圏内に入ると、まだ8月半ばだというのに周りはすっかり秋の気配、ツンドラが黄色から赤に鮮やかに紅葉していた。北極圏の扉国立公園に着くころには、土砂降りになり、気のせいかあたりは陰気な暗さに包まれているようだった。

 一晩中降り続いた雨が昼近くになってやっと止み、数日間のバックパッキングに向けて最終準備を行う。ダルトン・ハイウェイから出発して、冷たい川を渡り、急な斜面をひたすら登る…。トレイルのない自然のままの山道を、やぶをかき分けながら登るのだ。重いパックが肩に食い込み、連日の雨に濡れた下生えを滑りながら、やっとのことで平らな尾根まで登ると、正式に北極圏の扉国立公園内に入った。平らな尾根といっても、一帯は雪解け水の湿地になっていて、歩きづらい…。またしても雲が尾根をおおい始めた、と思ったら急に夕立のような雨。雨具を取り出して、パックにカバーをかけていると、雨は大粒のひょうに変わった。しばらくして太陽が出現、雨の中青空が顔を出し、虹まで架かった。変わりやすい天気が青空に落ち着くころには、足場の悪い尾根の湿原を渡り終えた。反対側のコユックトゥヴュック川まで下って、河原にキャンプを設置した。トレイルのない原野を重いパックを背負って歩くというのは、想像以上に時間がかかった。

 翌日は、ほとんど曇り空といえども、雨が降っていないだけでも嬉しい。撮影機材の入ったパックのみで、コユックトゥヴュック川沿いを探訪する。ツンドラの丘は見事に紅葉しいて、赤、黄色、オレンジのパッチワークになっていた。雲の間から日が差すと、ツンドラの紅葉はさらに鮮やかになった。

 ツンドラの丘にドールシープの頭骨を発見。この極北の原野は一番近くの村からも数百キロ、当然ながら携帯電話も通じない。万が一怪我でもして動けなくなっても助けを呼ぶ手段どころか、行方不明になっても、発見されるまでいったい何年かかることだろう…。

翌朝、目覚めると辺りの山は雪に覆われていた。前日に越えてきた尾根もすでに真っ白。キャンプの周りの河原だけは標高が低いため、まだ雨だった。まだ8月半ばなのに、すっかり冬景色に変わっていた。予定を切り上げて、キャンプをたたみ、引き返すことに決定。雨の中の荷物をまとめ、ツンドラの丘を登る…。雨に濡れたツンドラの急な山道を滑りながら登って、尾根に近づくと、雨が雪に変わり寒さが増してきた。尾根一帯はすでに雪が積もり、湿地帯も雪の下に隠れてしまっていた。当然ながら、靴も靴下も濡れて、さらに容赦なく雪が降り続ける。ある意味では美しい風景なのだけど、この状況を抜け出すためにはひたすら歩くのみ、撮影をする気にはなれなかった。

 尾根を横切って、山の反対側に出るころには雪がやみ、天気が回復してきた。急な斜面を降るころには、雲の切れ目から太陽の光が降り注ぐ。やっとカメラを取り出し、撮影を行う。無限に続く険しいブルックス山脈と氷河によって削られた谷、その谷を貫く一本の道(ダルトン・ハイウェイ)とパイプラインが一望に見えた。この極北の大地は美しい半面、厳しい自然の顔も合わせ持っているということを実感する旅だった。

北極圏から、数枚。

 ダルトン・ハイウェイのサイン。

 ユーコン川での夕焼け。

ゴールドラッシュの開拓地・ワイズマン。古い丸太小屋の建物が残る…。

これを書いている11月の初旬、アンカレッジも例年どうり雪の季節がやってきた。これから半年近く、長い冬が続く…。さて、次回もアラスカからの写真を掲載予定。1,2週間後にぜひこちらをチェックしてください。


2015年10月27日火曜日

アラスカ内陸の紅葉

 短い夏が終わり、8月下旬からアラスカ内陸部ではすでに紅葉の季節がやってくる。木々の少ないアラスカ内陸の原野では、大地を追うツンドラが鮮やかな紅色に色づく。

 9月に入って間もなく、晴天が続いた。海岸部に近いアンカレッジの木々はまだ夏の終わりの深い緑色。紅葉の大地を求めて、北へ向かった。約200マイル、300キロほど北上すると、森が開け、アラスカ原野特有のツンドラ地帯になる。どこまでも広がるツンドラの原野はすでに紅葉の真っ盛り!成熟したブルーベリーが見事な実をつけていた。山岳地帯を通過中に降り出した雨がやみ、太陽が顔を出すと、一面の紅葉が鮮やかに輝く。さらに絶好のタイミングで虹が架かった!

 翌日、アラスカ東部のカナダ国境沿いまで足を延ばす…。色鮮やかな紅葉は、アラスカ中を染めつくしていた。写真はタナナ川と黄金色に染まる木々。

 青空の下、黄色から朱色まで様々な秋の色に覆われた原野。短い夏の間に蓄えたエネルギーを一気に噴出するかのように、長い冬がやってくる前の最後の瞬間を色鮮やかに飾りつくしているかのようだ。

 日没のひと時。紅葉の丘を、暖かい夕日が照らし出す。日暮れとともにオーロラが現れ、空一面を一晩中舞っていた…。(オーロラの写真は前回のブログに乗せました。)

 翌日も素晴らしい快晴。どこまでも続く原野の紅葉と、名前すらない無数の湖。湖面には青空と険しい山々がくっきりと映っていた。息を飲むほど美しいこの風景は、都市部や観光地から離れた未開の場所にひっそり広がっている…。アラスカ原野にはこのような人知れない、かけがえのない場所がまだまだ残っている。この日、この場所に居合わせて、この瞬間を垣間見ることができたのは、まさに幸運だった。

アンカレッジへの帰路、チュガッチ山脈も赤く染まっていた。

これを書いている10月下旬の現在は、アンカレッジでも紅葉も終わり、曇り空が続いている…。朝夕の気温も下がり、冬の訪れを感じられずにはいない…。次回は夏の間に撮影した写真を載せたいと思う。

2015年10月3日土曜日

9月のオーロラ2‐ アラスカ、トック


 白夜の季節が終わり、夜の暗闇が戻ってきた8月半ばから、オーロラが活発に北の空を舞い始めた。9月に入って間もなく、明るいオーロラを求めて、アンカレッジから北へと向かった。フェアバンクス近郊に現れたオーロラは、休むことなく活発に空を駆け巡った。(前回のブログ)

 翌日、アラスカ東部、カナダ国境近くまでやってきた。雲一つない青空の下、人里から遠く離れた丘の上にキャンプを設置して、オーロラを待つ。 地平線にゆっくりと陽が落ち、空が薄暗くなり始めるのを待っていたかのように、オーロラはすでに北の空に弧を描いていた。空が暗くなるにしたがって、オーロラは明るさを増し、ゆらゆらと動き始めた。光はカーテン状になって空を横切り、反対側の地平線まで伸びきった。

 まるで、極北の川を登るサケのような形になった。

その夜も、明るいオーロラは一晩中、休むことなく動いていた…。

 火山の噴火のように、大地から湧き出す激しい緑色の光。

 天空で炸裂するオーロラ。

 明るく激しい光が、休みなしに動いている。

不死鳥のようなオーロラ。

見事なオーロラは、空一面に広がる…。

内陸アラスカの大地は紅葉の真っただ中。短い夏の間に成長した植物が、燃え尽きる最後の輝きとばかりに大地を鮮やかな紅色に染める。北の地が最も美しく輝く季節だ。まだ冬の訪れには少し早い。この時期のオーロラの撮影は、寒さを気にせず楽しめるのがいい。

次回は、紅葉に染まるアラスカの原野の写真を紹介予定。一週間後ぐらいに、またチェックしてください。

2015年9月26日土曜日

9月のオーロラ ‐ アラスカ, フェアバンクス


白夜の季節が終わりに近づいて、夜の暗闇が戻りはじめる8月中旬、オーロラが再び空を舞い始める。この時期には珍しく、明るいオーロラが連日のように秋の夜空を照らし出していた。アンカレッジからでさえ肉眼で見えるほどのオーロラがすでに何度も出ている。

アンカレッジから見えるほどのオーロラが出るということは、北極圏に近い北へ行けば行くほど、活発で強いオーロラが見えるのだ。

9月初旬、カメラ機材とキャンプの準備をして、北へ、フェアバンクス方面に向かった。北へ向かうにしたがって天気は回復し、フェアバンクスに着くころには雲一つない最高の天気の恵まれた。

深夜零時ごろから薄いオーロラが出現。オーロラは次第に明るくなり始め、緑色の光のアーチが空をうねり始めた。湖の湖畔で撮影を始めるころには、明るいオーロラが空を駆け巡り、月と一緒にダンスを踊っていた。風もなく静かな夜空を、光のリボンは活発に動き回っていた。

今やオーロラは空全体に広がっていた。地平線からうごめく光が空を横切り、天空で波打つ。次第に薄くなっていくころには、また別の光が、地平線から出現する。終わりのない見事なショーが続いていく…。

明るい炎のような光が湖上に出現…。炎の先から光の矢が生まれ、空を駆け抜ける。

オーロラのショーは休むことなく続く。場所を移動し、もう一つの湖に着くころには、空はますます明るく照らされ、滑らかな湖面は鏡のように、明るい緑の光を映し出していた。湖に映るオーロラを撮影できるのは、湖面が凍結する前のこの時期だけ、ほんの短い間なのだ。様々な場所でオーロラを見てきたけれど、この日のオーロラは特別だった。光が地平線から真上、さらに反対側の地平線まで広がって、休むことなく動いていた。

 波のようなオーロラ。

 天空で渦を巻く光。

湖面の霧と緑の光が混ざり合って、幻想的な光景になった。

翌日、アラスカ東部、カナダの国境近くのトック(Tok)まで足を延ばした。その夜も見事なオーロラが、日暮れとともに空を駆け抜けた。次回は、トック北部で撮影したオーロラの写真を掲載予定。1週間後ぐらいにチェックしてください。