2010年12月2日木曜日

オーロラ撮影!


アラスカ内陸、北極圏から少し下のフェアバンクスに到着して早くも3週間、オーロラの撮影できる機会を待っていた。オーロラが見える条件として、まずは空が晴れていること。曇っていたのではオーロラが出てても見えないのだ。長い夜の間、いつ出るかとは全く予想が立たず、出てもわずか2,3分で消えてしまう場合もあれば、2-3時間続く場合もある。自然写真は常に忍耐が必要だけど、オーロラの撮影は特に“忍耐”が第一だ。しかもアラスカの冬は寒さが厳しい。

こちらに来て初めて見たオーロラは白い線だった…。飛行機雲を少し太くしたような線が地上から空に向かってまっすぐに伸びているだけで、動くこともなく10分ほどで消えてしまった。

翌日は夜中の1時までオーロラを待った。待つことしばらくして、山の上に薄い緑色の光の線が現れた。前日のものよりはオーロラらしいものの、本当に薄くてぼんやりとしている。あわててカメラをセットしたもののわずか数分で消えてしまった。消える直前の薄い光がかろうじて写っていた。

その後数日間雪が続き、しかもこの時期のアラスカには珍しく雨まで降っていたため、オーロラ撮影はしばらくお預け状態だった。やっと空が晴れ上がり、今回は雪上車に乗って丘の上に出かけた。頂上は雪が深く、辺りの小さな木々は樹氷に覆われて幻想的な雰囲気を作り出していた。空が恐ろしく澄んでいて、無数の星が輝き、天の川までがはっきり見えた。頂上に着くなり、淡い緑色のオーロラが現れた。緑の光は地平線に弧を描くように伸びたまましばらく停止して、ゆっくりと消えていった。
その後数時間、緑色の光が現れては消えていった…。その日最後のオーロラは、緑の光がカーテン状に広がり、空を明るく照らし出した。

オーロラの神秘的な美しさにすっかり魅了されてしまった…。次のオーロラが待ち遠しい。それにしても、アラスカ内陸の冬は寒い。

2010年11月9日火曜日

フェアウェザー山脈

南東アラスカ、グレーシャー・ベイ国立公園を貫くフェアウェザー山脈は氷河を抱く数多くの高峰から成り立つ。標高4,600mのフェアウェザー山を含む山脈は,全長113kmにも及んでいる。

南東アラスカの例にもれず、グレーシャー・ベイの上空はいつも重い雲におおわれているので、このフェアウェザー山脈が顔を出すことは珍しい。雲の晴れ間から姿を現す白く連なる峰は感動的な美しさだ。
8月のある晴れた日、フェアウェザー山脈の正面に当たる浜辺で、キャンプをしながら夕日が落ちるのを待っていた。アラスカの一日は長い。北極圏からかなり南に当たる、グレーシャー・ベイでさえ日没は9時過ぎだ。ゆっくりと時間をかけて傾いた夕日は、フェアウェザー山脈の後ろに隠れ、峰を明るいオレンジ色に染めた。空は次第に赤みを増していく…。やがて空全体が朱色に輝き、手前に広がる満潮の海までも空の朱色に染まった。北の大地での日没は長い…。日が傾き始めてから1時間ほどかけて、空の色を変えながらゆっくりと沈んでいくのだ。この日の夕焼けはグレーシャー・ベイにて過ごした3ヶ月間で最高の美しさだった。日が沈むと、無数の明るい星を散らした天の川が空を照らし出した。どこからともなく狼の遠吠えが一晩中続いていた。
翌朝も晴天は続いていた…。霧の多い南東アラスカには例外で、薄明かりの空にフェアウェザー山脈が白く輝いていた。日の出前に、空全体が淡いバラ色に染まりだした。朝日は時間をかけてゆっくりと顔を出す…。まずはフェアウェザー山の頂上をピンク色に輝かせて、ゆっくりと山全体を桃色に染めていく…。ありがたいことに、アラスカの日の出も時間をかけながらゆっくりと昇る。フェアウェザー山脈の一つ一つの頂上を撮影することができた。グレーシャー・ベイには稀な日の出の瞬間だ。

フェアウェザー山脈をバックに撮影した夕焼けの数々…。

フェアウェザー山を空から撮影。
グレーシャー・ベイ国立公園での3ヶ月間の撮影を終え、現在アラスカ州の都市、アンカレッジに滞在中。

2010年9月12日日曜日

シー・カヤックにてグレーシャー・ベイへ ③


マックブライド氷河(McBride Glacier) を後にし、グレーシャー・ベイ内のEast Armをひたすら南下。南東アラスカには大変珍しい青空の下、なめらかな海をカヤックはすべるように進む…。

Mt. Wright(ライト山)を望む美しい浜辺にてキャンプ…。

ところが浜辺にクマによって掘られた2つの大きな穴を発見…。クマが昼寝に使う穴らしく、辺りにはたくさんの足跡がついていてるだけでなく、クマの糞も残されていた。アラスカの原野にはまだまだかなりの数の野生グマが生息しているのだ。

クマの痕跡よりも厄介なのは虫だ。アラスカの州鳥は蚊という冗談があるほど、蚊の猛攻撃に悩まされた。蚊だけではなく、小さなハエまでが刺してくる。ちなみにアラスカの州鳥はライチョウ、長野県の高山地帯に住むライチョウと同種だ。

翌日は朝から霧雨の降る暗い一日。灰色の雲が空をおおい、眼前のライト山、および対岸の山々までもすっぽりと覆い隠してしまった…。雨は一日中降り続いたが、幸い風はなかった。雨の中ひたすらカヤックを漕ぐ…。

小さな島にて雨の中、テントを立てる…。

翌朝も雨。シーブリー島にて、迎えの舟を待つ…。時間通りのピックアップ。カヤックを積み込み、3日間の原野での旅に終わりをつげ、暖かい船室とトイレ、文明のありがたさを感じる。

2010年9月1日水曜日

シーカヤックにてグレーシャー・ベイへ②リグス氷河&マックブライド氷河

リグス氷河(Riggs Glacier) の下で迎えた朝は、幻のように白い霧に包まれていた。眼前の海峡ですら見えないほどのあつい霧だ。
少しづつ薄れてく霧の上から、日が差しはじめて、氷河をおおっていた白いベールが少しづつ開き始めていった…。霧の中から垣間見える白い氷河の姿はこの上なく神秘的だった。

氷河から溶け出し、長い年月をかけて堆積した泥が美しいパターンを作り出していた。自然の生み出した見事なデザインにはいつものことだが感銘をうける…。

霧が次第に薄れ、見事な青空が広がり始めた。

リグス氷河から南下し、マックブライド氷河(McBride Glacier) へ…。マックブライド氷河はグレーシャー・ベイ内の他の氷河同様後退しているものの、現在でも活発に氷山を生み出している。後退した氷河の入江には家や車を上回る大きさの氷山が隙間なく浮かんでいた。無数の白い氷の塊が岸に打ち上げられ、地球上のものとは思えない不思議な世界を作り出していた。

2010年8月29日日曜日

シー・カヤックにてグレーシャー・ベイへ①

グレーシャーベイ国立公園の大半は海…。わずか200年前まで湾内をおおっていた大氷河が後退し、氷河によって削られ入り組んだフィヨルドと呼ばれる深い湾には無数の小さな島が浮かんでいる。陸路からアクセスできるのは限られたほんの一角だけ、園内に存在する16の氷河をはじめ、ダイナミックな風景のほとんどは海路、または空からのアプローチとなる。

グレーシャーベイ国立公園の滞在し撮影を続けること、早くも2ヶ月。南東アラスカ特有の深い森や海岸線を陸路から、氷河やザトウクジラを船から追い続けてきた。グレーシャーベイは、簡単に言うとY字型の湾なのだが、船でアクセスできるのはWest Arm(Y の左側)のみ、East Arm(右側)を訪れるにはカヤックを漕ぎキャンプしながら北上することになる。

8月上旬のある日、3人の仲間とともに2隻のダブルカヤックでEastArmに向けて漕ぎ出した。湾内を包み込む白い霧は対岸にそびえる山をおおい、氷河から溶け出した翠色の海までも乳白色に染めていた。まるで水墨画の風景に入り込んだような不思議な気分になった。

霧は次第に晴れ上がり、南東アラスカには珍しい青空が広がり始めた。湾の両側にそびえる山々が姿を現し、海はトロピカルグリーンに輝きだした。数え切れないほどの小さな入り江や無人の浜辺を通り越し、フィヨルドの海は北に行くほど狭まってきた。EastArm一つ目の氷河を通り越し、さらに北へ…。ここまで来て始めて海面を漂う氷山を発見。

眼前に今夜のキャンプ地となるリグス氷河(Riggs Glacier) が見え始めた。近くに見える氷河もまだまだカヤックでは2-3時間の距離、氷山の数は少しづつ増してきた。多数の氷山を生み出しているマックブライド氷河を通り過ぎる頃には辺りの地形が変わり始めた。植物の数が減り、むき出しの岩が両側にそびえる…。

カヤックを漕ぐこと約43Km、ついにリグス氷河にたどり着いた。わずか50年ほど前までは氷山を海に放出していたリグス氷河はすでに後退し、氷河の正面は広い平地となっていた。2頭のハクトウワシが近くの丘からこちらをうかがっていた。申し分のない素晴らしい眺めだ。

キャンプの近くに今までに見たこともないような巨大なクマの足跡を発見…。

南東アラスカには珍しい、美しい夕陽…。

2010年8月16日月曜日

ハクトウワシ(Bald Eagle)


アメリカ合衆国のシンボル、ハクトウワシは南東アラスカに数多く生存している。ここグレーシャーベイ国立公園でも頻繁にその姿を見かける。羽を広げると2メートルにもなる大きなワシが空を舞う姿は、なかなか感動的だ。

引き潮の浜辺には、打ち上げられた餌を求め数多くのハクトウワシが集まる…。魚の死骸に取り付いてむさぼり食うワシ。隙を見て、餌を奪おうと、数羽のワシがじっと見つめる。餌を求めて争うこともしばしば…。
ハクトウワシの成鳥は漆黒の体に白い頭と白い尾、白い靴下を履いたような足に鮮やかな黄色い嘴と絵になる勇々しさなのだが、5才までの若鳥は茶褐色と白のまだら。成長とともに羽の色が変わり、やがて絵に描いたような姿になる。英名はBald Eagle、直訳するとハゲワシ。成長とともに姿が変わり、大人になると頭が禿げるというのはなかなかいいネーミングだと思う。

2010年7月27日火曜日

ザトウクジラ

短い夏の間、南東アラスカの入り組んだ海には数千頭ものザトウクジラが訪れる。暖かい南太平洋にて出産を終え、海の幸が豊富な北の海に食餌を求め、4,500キロもの距離を海流に乗ってやってくるのだ。
この時期に海に出ると、必ずといっていいほどクジラに出会う。時には海岸近くの浅瀬までやってくる。小さな入り江でカヤックを漕いでいると、クジラの親子が表面に浮きながら昼寝をしていた。少しづつ近かづいていってもまったく起きる気配がなく、滑らかな黒い巨体は海の表面を漂っていた。わずか数メートルまで近づいてもまったく動かない。二つの大きな体は二人乗りのカッヤクをさらに上回る大きさで、もしも突然動き出したら私たちの乗ってるカヤックなんてひとたまりもないだろう。それでも恐怖というよりは、不思議な静けさを感じた。やがて、母親のほうが潮を噴き上げ、子供のほうもゆっくりと動き出した。2頭の巨体はゆっくりと反対方向に泳ぎだし、少しづつカヤックから離れていった。そして双葉のような尾びれを水面に出し、深く水中に消えていった…。

またある日、小さな船で海に出たときのことだ。岸を離れてわずか20分足らずで1頭のクジラに出会った。船の近くまでやってくることも珍しくはないのだが、突然激しい轟音とともに水面に弧を描くように全身を現した。ほんの一瞬の出来事だったが、まるで夢を見ているかのようだった…。この”ブリーチング”と呼ばれるクジラのジャンプの原因は究明されていない。海洋生物学者の間でも意見が分かれている。

この時期のザトウクジラはグループで行動することも多い。数頭のクジラが共に食餌をする。尾ヒレを見せて同時に潜っていくのは、シンクロナイズスイミングを見てるようだ。