2010年7月27日火曜日

ザトウクジラ

短い夏の間、南東アラスカの入り組んだ海には数千頭ものザトウクジラが訪れる。暖かい南太平洋にて出産を終え、海の幸が豊富な北の海に食餌を求め、4,500キロもの距離を海流に乗ってやってくるのだ。
この時期に海に出ると、必ずといっていいほどクジラに出会う。時には海岸近くの浅瀬までやってくる。小さな入り江でカヤックを漕いでいると、クジラの親子が表面に浮きながら昼寝をしていた。少しづつ近かづいていってもまったく起きる気配がなく、滑らかな黒い巨体は海の表面を漂っていた。わずか数メートルまで近づいてもまったく動かない。二つの大きな体は二人乗りのカッヤクをさらに上回る大きさで、もしも突然動き出したら私たちの乗ってるカヤックなんてひとたまりもないだろう。それでも恐怖というよりは、不思議な静けさを感じた。やがて、母親のほうが潮を噴き上げ、子供のほうもゆっくりと動き出した。2頭の巨体はゆっくりと反対方向に泳ぎだし、少しづつカヤックから離れていった。そして双葉のような尾びれを水面に出し、深く水中に消えていった…。

またある日、小さな船で海に出たときのことだ。岸を離れてわずか20分足らずで1頭のクジラに出会った。船の近くまでやってくることも珍しくはないのだが、突然激しい轟音とともに水面に弧を描くように全身を現した。ほんの一瞬の出来事だったが、まるで夢を見ているかのようだった…。この”ブリーチング”と呼ばれるクジラのジャンプの原因は究明されていない。海洋生物学者の間でも意見が分かれている。

この時期のザトウクジラはグループで行動することも多い。数頭のクジラが共に食餌をする。尾ヒレを見せて同時に潜っていくのは、シンクロナイズスイミングを見てるようだ。

2010年7月13日火曜日

グレーシャー・ベイ国立公園

3週間にわたるフェリーでの旅を終えて、ついに最終目的地グレーシャー・ベイ国立公園にたどり着いた。到着したその日は南東アラスカには珍しく快晴だった。
ここグレーシャー・ベイでこの夏を過ごすことになる。滞在先のバートレット湾(Bartlett Cove) には国立公園のビジターセンターやロッジなど観光の拠点が集中している。グレーシャー・ベイはアメリカ本土の国立公園とは違って、広大な保護区の大部分は未開のままの原生林、氷河を抱く険しい山脈が広がっていて、観光向けの道路などはない。南東アラスカの例にもれず、雨が多いため、深い森の木々にはベールのようにコケがおおいかぶさり、じゅうたんのような厚いコケが台地を敷きつめている。ウィスコンシン氷河期にはこの南東アラスカ一帯は大氷河に覆われていた。大氷河は次第に後退し、氷河の溶けた湾にグレーシャー・ベイを生み出した。大氷河は数多くの氷河に分散され、その大部分は現在でも少しづつ後退を続けている…。グレーシャー・ベイの湾内には16の氷河が今でも存在している。氷河の後退した大地には少しづつ植物が育ち始め、やがて森がその一帯をおおっている。

グレーシャー・ベイ内に残る氷河を訪れ撮影するためには、船やカヤックなどで約30キロほど湾内を北上することになる。6月上旬のよく晴れた日に、船で氷河を訪れる機会に恵まれた。青空の下、普段は雲の中に隠れているフェアウェザー山脈が白く輝き、標高4,600mのフェアウェザー山が全貌を現した。

グレーシャー・ベイにはアシカやアザラシなどの野生動物や海鳥などが豊富だ。海鳥の群れがボートを追って飛び続ける…。

グレーシャー・ベイの西側、ウエスト・アームの行き止まりには、フェアウェザー山から流れ落ちるマージェリー氷河がフィヨルドの海に注いでいる。眼前には氷河の巨大な白い壁が立ちはだかっている…。

わずか数百年前までに湾内をおおっていたグランド・パシフィック氷河は現在では後退し、黒い堆積物に覆われてしまっている…。

ジョン・ホプキンス氷河は今でも活発に動いており、大小さまざまな氷山を絶え間なく生み出している。アザラシの繁殖期となっているこの時期、ボートは氷河の近くによることを禁止されているので、遠くからその雄大な姿を眺める。

ザトウクジラの死骸が海岸に打ち上げられていた。数週間にわたり熊や狼などの野生動物が死骸の周辺に現れ、鯨の肉をあさっているという…。

フェアウェザー山の後ろに沈む夕日…。

グレーシャー・ベイの序章となる素晴らしい一日だった。氷河の周辺で数日を過ごしてみたい。

2010年7月8日木曜日

ゴールドラッシュの面影の残る町・スキャグウェイ

ピータースバーグをフェリーで北上すること約20時間、フィヨルドの海の両側に険しい雪山が迫るLynn Canal(リン海峡)を通過し、ヘインズ経由でスキャグウェイに到着した。インサイド・パッセージ最北の町、ゴールドラッシュの面影の残るスキャグウェイは人口900人弱の小さな町だ。険しい山に囲まれたせまい平地に作られた町にはゴールドラッシュ時代の古き建物が修復され保存されている。スキャグウェイもケチカンやジュノーと並び、大型クルーズ船の寄港地となっているため、夏の間は小さな街の通りが観光客で埋め尽くされる。

スキャグウェイの主な部分はクロンダイク国立歴史公園に指定されている。ゴールドラッシュ時代の建物の中には、土産物屋やカフェなどが入り、ゴールドラッシュ時代の数倍にも上る観光客でにぎわっている。国立公園レンジャーによるウォーキングツアーに参加。

ゴールドラッシュ時代、3万人にも及ぶ人々が金鉱を求めてスキャグウェイを出発し、真冬の厳しい山道を越え、カナダ・ユーコン準州ドーソン・シティを目指した。1900年夏にはホワイトパス&ユーコン鉄道が完成したが、すでにゴールドラッシュは終わりに近づいていた。現在ではこの鉄道はスキャグウェイ観光の目玉となっており、海抜900mのホワイトパスまでの雄大な風景を車窓から楽しむことができる。

新緑のまぶしいスキャグウェイから列車は少しずつ標高を上げ、森を抜け、あたりは高原の雪景色に変わっていく…。ホワイトパスはまだ冬の終わり、大小さまざまな湖の大半はまだ氷におおわれていた。

終点フレーザー湖(Frazer Lake)に到着。短い休憩後、列車はスキャグウェイに折り返す…。

スキャグウェイのダウンタウンからのトレイルを登ることしばらく…。視界が開け、リン海峡、そしてチルカット山脈の雪山が見渡せた。夕日がゆっくりと沈むころ、山脈の頂上とその後ろの空が淡いピンク色に染まった。

日没の頃、大型クルーズ船が一隻づつスキャグウェイを去っていく…。スキャグウェイの町が静けさを取り戻す。

3週間にわたる南東アラスカの旅が終わりに近づき、ジュノーを経てついに最終目的地グレーシャー・ベイ国立公園に到着する。