2010年6月29日火曜日

アラスカの漁村・ピータースバーグ

ケチカンからフェリーで北上すること約10時間、途中ランゲルを経由し、小さな港町ピータースバーグに到着した。ピータースバーグ近郊の水路が狭いため、大型クルーズ船は停泊しない、というかできないのだ。観光客向けのみやげ物店やおしゃれなレストランの立ち並ぶケチカンやジュノーとはまったく雰囲気の違う小さな町だ。

人口わずか3,000人のピータースバーグの主な産業は漁業で、港には釣り船がところ狭しと停泊し、住民のほとんどは何らかの水産業に係わっている。この小さな町はもともとノルウェイから移民した漁師たちによって開かれた町だ。

町中には今でもノルウェイ・スタイルの住宅がたくさん残っていて、ノルウェイ系の漁師たちが代々同じみの海に釣り船を出している。

ピータースバーグも南東アラスカの例にもれず雨が多いとは聞いていたものの、到着したその日はこの旅最高の夕焼けに恵まれた。普段は雲の中に隠れているカナダ国境沿いの高峰デビルズ・ムも姿を現していた。

トンガス国有林の森が小さな町の後ろに迫るピータースバーグには湿原が目立ち、深い原生林に囲まれたケチカンと比べてオープンな感じがする。ここではじめて小さな青い花“忘れな草”(Foreget-Me-Not)を見かけた。忘れな草はアラスカの州花だ。

道端に咲くその花を撮影していると、沢から突然小さなカワウソが顔を出した。カワウソの方もびっくりしたらしく、一目散に逃げていく…。近くの巣穴らしい木の根元に隠れて、こちらの様子をうかがっている。再び姿を現すのをしばらく待ったけれど、すばやく飛び出し、見事にどこかへ身を隠してしまった。

翌日、友人の船でフレデリック海峡を渡り、小さな入り江に入る。干潮で現れた海岸線の藻の色が美しかった。

ラコンテ氷河から溶け出した氷山がいくつか海峡に浮かび、太陽の光を浴びてアクアマリーン色に輝いていた。

港に戻ると日が出ているうちにノルウェイ移民の建物を撮影して歩いた。その日の夕日は、ピータースバーグに到着した日ほど赤く染まらなかったけど、十分美しかった。

次の目的地は、ゴールドラッシュの面影の残るスキャグウェイだ。

2010年6月21日月曜日

アラスカ"一番目の都市" ケチカン

今回の旅で最初の立ち寄ったのは、アラスカ最南の港町ケチカン。深い森に囲まれた、アラスカ先住民文化の色濃く残る町だ。アメリカ最多の降雨量というケチカンはいつも灰色の雲におおわれている。近年では大型クルーズの寄港地もひとつとしても有名で、クルーズ船の停泊中は町中が観光客であふれる…。

観光客で込み合う町を後にし、Deer Mountain へハイキングに向かった。苔に覆われた深い森は新緑の季節・・・、様々な緑が森中を覆っている。台地をおおう苔までが明るい黄緑だ。ちょうどこの時期は水芭蕉に似ている“スカンク・キャベツ”の花が水辺に沿って、黄色い大きなラッパのような花を咲かせていた。スカンク・キャベツとはよく言ったものでこの花からは独特の匂いが漂っている。

岩をおおう緑の苔を流れる小さな滝は、日本庭園を想わせるものがある…。

次の数日間はアラスカ先住民の文化を訪ね歩いた。雨の中訪れたトーテム・バイト州立歴史公園では、幸運にも他の観光客にまったく出会うこともなく、静かに一人で森の小道を歩き、トーテムポールの立ち並ぶ海辺を散策できた。ひと気のないクランハウス(先住民の集会小屋)にただ一人座っていると、不思議にも神秘的なものを感じてしまう。また、浜辺からトーテムポールの立つ村を見ると、その昔旅人が海からカヌーを漕いでやってきて、小さな集落に出会ったような錯覚を覚えてしまう。

アラスカ先住民の子孫たちは、顔立ちや体系が驚くほど日本人に似ているのだ。はるか昔、日本人を含むアジアの人々の祖先が氷河期に海を渡り、アラスカに移住したという説があるが、それが納得してしまうほど似ているのだ。公園を後にするころ、クルーズ船からやってきた観光客の一団が大型バスからぞろぞろと降りてきた。あたりの雰囲気が一変するのを感じた。

トンガス・ハイウェイの終点、Settlers Cove(セトラーズ湾)のトレイルを歩いた。コケに覆われた深い森は南東アラスカの大部分を占めており、一帯がトンガス国有林に指定されている。
森の中を流れ落ちる滝に遭遇…。

ひと気のない海岸線。干潮で海藻類に覆われた岩が露出している…。

午後8時過ぎ、夕日がべトン島の後ろに沈んだ。

翌朝は再び干潮で、無数の海の生き物が浜辺に現れた。様々な色・形のヒトデ…。特にサンフラワー・スターと呼ばれる20本以上の足を持つ大型のヒトデが数え切れないほど露出していたのには驚きだった。

ケチカンはアラスカ先住民文化と、自然が調和した美しい町だ。次はケチカンから北へ約150キロの小さな港町ピーターズバーグへ向かう。

2010年4月30日金曜日

レイク・タホ―4月の雪景色


4月上旬、すでに春の気配が漂うワイオミング州ジャクソンホールを引き上げ、一年ぶりにレイク・タホを訪れた。友人に会ったり、ギャラリーのオーナーとミーティングをしたりと予定がぎっしり詰まっていたものの、美しいタホの自然の中での撮影を期待していたのだが・・・。ところが、タホに着くと同時に雪が降り始め、一晩中降り続いてしまった。一晩どころでは収まらず、ほぼ丸一週間降り続きあたりはすっかり雪景色。雪が降ってもすぐに青空に戻るはずのタホが、一週間ずっと厚い雲に覆われてしまった。日の出や夕日の撮影どころか、青空の下でエメラルド色に輝く湖の撮影すら出来ずにいた。

雪景色のタホの美しさに改めて感動はしたものの、やっぱり太陽が恋しい…。それでも、ただ1日だけ太陽がほんの少し顔を出してくれた。この機を逃すものかと、Sand Harborへ出かけた。Sand Harborのビーチには丸い岩が転がっていて、いかにも"タホらしい"風景だ。お気に入りの撮影場所のひとつだ。夕日の瞬間、空が朱色に染まることを期待しつつ、カメラをセット・・・。地平線近くの雲が赤く染まるか、逆に夕日を灰色に隠してしまうかきわどいところだ。灰色の雲が勢いを増してきた。それでも太陽は雲の間から金色の光を照らし出し、レイクをゴールデン・カラーに輝かした!神秘的な美しさに感動しながら、シャッターを切った。
一年ぶりに訪れたBlack Pearl Gallery。このギャラリーには2008年からお世話になっている。
レイク・タホでの1週間の滞在はあっという間に終わってしまい、現在シアトルにてワイオミングからの写真の編集中。シアトルはすっかり春、新緑と桜の季節だ。束の間の休憩、さまざまな雑用を終え、5月中旬からアラスカに向けて出発。今回はフェリーにて南東アラスカの港町、ケチカン、ピータースバーグ、スキャグウェイを経て、アラスカ州都ジュノーよりグレーシャー・ベイ国立公園へ向かう。グレーシャー・ベイに約3ヶ月滞在予定だ。

2010年4月15日木曜日

早春のグランド・ティトン

3月中旬のグランド・ティトンはすでに春の陽気。今年は雪が少なかったけれど、春の訪れも一月ばかり早いようだ。すでにジャクソン周辺は雪が溶け、町中に自転車が出現。グランドティトン国立公園内も、まだ雪は残るものの、雪の間をぬって小川が溶け出している。日差しはすっかり春のものだ。
グランド・ティトン最大の湖、ジャクソン・レイクはまだしっかり凍っている。スノーシューにて、凍った湖の上を歩き、湖に浮かぶ小島や入り江を探索するのは冬の間にしかできない経験だ。

広大なジャクソン・レイクの他にも大小さまざまな湖が点在する。タガード湖 (Taggard Lake)やブラドリー湖 (Bradly Lake) などはティトン山脈の真下にあるから、夏の間はティートンの峰きれいに映しだすだろう・・・。この小さな湖群はスノーシューやクロスカントリースキーのトレイルとしても人気が高い。
湖を結ぶ小さな渓谷はすでに解け始め、雪の下を流れている・・・。すでに冬眠を切り上げたクマの足跡が湖の周りに残っていた。
ティトンの山並みとスネーク・リバー、お気に入りの場所のひとつ。

2010年3月26日金曜日

ティートン山脈と開拓時代の納屋

ティートン山脈の山並みをバックにしたこの納屋はCMやポスターなどですっかり有名であり、写真家にはお馴染みのスポットだ。例に漏れず、この風景を撮影するのは数多くの目標の一つだった。特に雪景色の中、朝日を浴びてピンク色に輝く峰を撮影する機会を待っていた・・・。

ここワイオミング州グランド・ティートンは雪が多く、この納屋のあるAntelope Flat Roadは通常2-3mにも及ぶ雪に埋もれ、当然ながら道路は閉鎖される。例年の40%以下という雪の少ないこの冬、3月になるとすでに雪が解け始め、中旬にはすでに道路はオープン!それでもまだ雪景色なのだ。
3月中旬のある朝、日の出前にカメラをセットし、美しい朝焼けになることを願いつつ凍えながら待つ・・・。幸い星が出ていて、快晴は間違いなしだ。午前7:30、東の空が淡いオレンジ色に染まり、空全体が次第に明るくなり始めた。そして、ティートンの峰が淡いピンク色に照らされだした。ピンク色の光は徐々に広がり、やがて山全体を覆った・・・。

わずか数分間の夢のような朝焼けが次第に薄れていき、日の出後の暖かいオレンジ色の光が辺りを包み始めた。
納屋のまわりに残る建物の撮影を始めた・・・。この建物"Mormon Row”は1920年代に開拓者によって建てられたものだ。

ティートン山脈の絶景の前に残る、アウトハウス〔トイレ〕・・・。
ここワイオミングを去る日が近づいてきた・・・。この次は夏の緑に包まれたグランドティートンを撮影したい。

2010年3月11日木曜日

ビッグホーン・シープ

ワイオミング州ジャクソン・ホールから東に約90KmDubois郊外のウイスキー・マウンテンはビッグホーンシープの生息地として知られている。1,450頭を超える羊がこの一帯に住んでいるのだ。
3月初旬の晴れた日に、友人の共にビッグホーン・シープの撮影に出かけた。車で1時間、峠を越え、Duboisへ向かった。滞在中のTogwotee Passやジャクソン・ホールの雪景色とは違い、Dubois周辺はすでに春の気配が漂っていた。雪はほとんどなく、砂漠の茶褐色の土がむき出しだった。川の氷も溶け出していた。

実は少し前にもウイスキー・マウンテンに撮影に来たのだが、わずか2頭の羊がはるか遠くの岩山の峰を駆け上がっているのをかろうじて見ただけで、とても良い写真が取れる距離ではなかった。(その代わり、多数のシカを見ることが出来たけど…)今回は、絶対ビッグホーン・シープを撮影するぞと気合を入れてきた。ワイオミング滞在も残るところ後3週間に迫っている…。

Duboisの小さな町を通り抜け、ウイスキー・マウンテンへ向けてのダート・ロードを小さな渓谷に沿って進んだ。この辺りには、昨夜降ったとも思われる雪が、うっすらと積もっていた。道の両側に迫る茶褐色の岩山に目を凝らし、羊の姿を捜し求めた。羊はおろか、シカ一頭も見かけない…。すでに春の気配、気温が上がると野生動物は標高の高い山に移動してしまう…。すでに時期を逃してしまったのだろうか、動物を全く見かけないまま、ダート・ロードの終点に着いてしまった。

車を止め、2時間ほどトレイルを歩き、戻ってきた。さらに気温は上がり、明るい日差しが砂漠の一帯を照らしていた。

帰路は、ビッグホーン・シープを探すのもあきらめ、他の撮影場所を考え始めていた。突然、動物の群れがひとかたまりになって休んでいるのが目に入った。ビッグホーン・シープだ!
10頭を軽く超える羊の群れが、道からわずか10mほどの岩の上に寝そべり、草を食んでいた。車を止めても、羊たちは全く気にせず、口を動かしている…。羊たちの額には小さな角が2本突き出しているものの、大きな角の巻き上がった雄羊の姿は無かった。
そっとドアを開け、外に出て撮影を始めた。羊たちはまだ気にする気配も無く、寝そべっている。撮影を続けていると、群れの中の何頭かが用心深く立ち上がって歩き出した。後を続く羊の中に、まだ幼さの残る子羊もいる…。わずか数メートル先で立ち止まりまた草を食み始めた。
20頭近くものビッグホーン・シープの群れを間近で撮影できる機会に恵まれ、しばらくは興奮が冷めなかった。

2010年2月18日木曜日

アングル・マウンテンからの夕日

ここワイオミングに来て早くも2ヶ月、スノーシュー・ハイキングにはまっている。雪の深いTogwotee Pass周辺を探索し、撮影を行うのには、スノーシューが一番!深い雪の表面を沈むことなく歩いてけるのだ。先日、Angle Mountain〔アングル・マウンテン〕をスキーヤーの友人達と共に登頂した。Angle Mountainは標高約3,100m、トレイル・ヘッドから500m、急角度にそびえている。この冬、頻繁にスーノーシューをはいて歩き回っているけれど、この急な角度を登るのは初めて。友人達は、スキーを履いたまま50度以上もある急勾配を登っていくのだった。
この日は一日中雪・・・。時折、雲の合間から日が差し、青空が顔を出すものの、すぐに厚い雲が空を覆い隠してしまった。深い雪の中、急な斜面をジグザグに登り、木々の間を抜け、何とか尾根にたどり着いた。尾根に立つ雪に覆われた木々の美しさに感動・・・。最近、アウトドア・スポーツの撮影も行っているので、2人の友人は格好のモデルになった。急な斜面から飛び降り、パウダースノーを撒き散らし、一気に駆け下りていく姿はなかなかのものだ。瞬く間に下界に消えていった彼らの後を追って、スノーシューで必死に下った。雪はまだ降り続いている・・・。夕暮れの時が近づいているのか、辺りはいっそう暗さを増してきた。雲の合間から、わずかな光が顔を出し始めた。ちょうど西の地平線に、雲の窓が開き、沈みゆく夕日が最後の明かりを照らし出した。濃厚なオレンジ色の光が、重い雲の間からまばゆく輝き、下界にとどまる霧を黄金色に染め出した。西の空一帯が輝きを増し、地面に積もる雪や道路までが空の輝きを映し出していた。自然が見せくれた奇跡のような美しさに感動し、その瞬間に居合わせた喜びをいっぱいに感じながら、山を降りた。