2016年3月14日月曜日

ナ・パリ・コースト トレッキング ‐ ハワイ・カウアイ島

 カウアイ島北部のナ・パリー・コーストは太平洋で最も美しい場所と言われている。「ジュラシック・パーク」にも登場した緑の断崖絶壁が続く海岸線には世界中から観光客が訪れている。観光客のほとんどは実際に海岸に足を踏み入れることがなく、ツアーに参加して、ボートから海岸線を観光するか、ヘリコプターから見降ろすだけで終わり。このナ・パリ・コーストを実際に体験するには、海岸沿いに削られたカララウ・トレイルを片道11マイル(17.7㎞)トレッキングして、楽園と言われるカララウ・ビーチでキャンプをするに限るのだ。もちろん、夕日に染まる海岸線を撮影するためには、キャンプは欠かせない。

 ハワイ諸島が雨季にあたる12月初旬、真冬のアラスカを発ち、カウアイ島へ。アラスカに移り住んでから、冬のハワイ撮影プロジェクトは恒例となりつつある。幸いカウアイに着いてから天気のは恵まれている。朝から快晴の下、最初の2マイル(3キロほど)ハナカピアイ・ビーチまではトレイルも広く歩きやすかった。エメラルド色の海を見下ろしながら、さっそうと歩く…。ここまでは日帰りの観光客も多く、カジュアルな服装にデイパックのみという家族連れが目立つ。

ハナカピアイ・ビーチを過ぎたあたりから、雲行きが怪しくなり、霧雨が降り出した。トレイルは雨で泥だらけ、滑りやすくなっていた。カウアイ島の山岳部の降雨量は世界一ともいわれ、冬の間緑の頂上に居座る雲から毎日のように雨が降り続いている。17.7㎞の間に5つの谷をまたがるカララウ・トレイルは、登ったと思ったらすぐに下り、そしてまた登りを繰り返す。特に雨天の続く冬場は、トレイルが泥だらけで、重いパックを背負い滑りながら、バランスを取りながらひたすら歩くのだ。6マイル地点にあるハナコアのキャンプに着くころには、すでに暗くなりはじめていた。雨は土砂降りに変わり、一晩中降り続けた。

 翌朝もまだ雨が降っていた。ハナコア川も水かさを増して、カメラ機材とキャンプ用品のつまった大きなパックを背負って超えるのは苦難の業だった。川の真ん中で滑って転び、全身びしょぬれになるハイカーもいた。腰まで水につかりながら、パックを濡らさないように一歩一歩気を付けて歩いた。途中、寄り道をして、ハナコア滝を撮影。緑の岸壁から流れ落ちる滝は圧巻だった。

 天気は刻々と変わっていく…。雨が降り、太陽が顔を出し、虹が架かる…。ハワイの風景画によく虹が登場するのには納得だ。

このカララウ・トレイルで最も危険と言われている〝Crawler's Ledge〟(直訳すると,はって歩く岩棚という意味になる)が見えてきた。アメリカのアウトドア誌で「全米で最も危険なトレイル」と位置付けられ、ハイカーたちの間でも語り継がれてきた、あの崖っぷちの岩棚がついに眼前に現れたのだ。雨に濡れた赤土のトレイルが急降下してうねりながら、岸壁に続いていた。バックパックのベルトをを再調節していると、2人のハイカーが下から登ってくるのが見えた。一人は濡れたトレイルを滑りながら苦戦していた。昨夜からの雨でトレイルの状態は悪く、泥だらけの急な下りすでに苦戦気味。トレイルが赤土から、火山岩の黒い岩に変わり、徐々に細くなっていった。数200メートル下の断崖には、荒い波が次々と岸壁を打っている。雨上がりの岩肌は濡れて滑りやすくなっている。細くなったトレイルが岸壁を回り込むところまで行ったものの、足がすくみ、重いパックを背負いながらバランスをとるのに神経をすり減らしていると、救いの神が現れた…。二人のハイカーが後ろからやってきたのだが、そのうち一人はプロのハイキングガイドでこのカララウ・トレイルを何度もガイドしているという。もう一人の女性は、ガイドを雇ったドイツ人のお客さん。親切なガイドの手助けで、無事岩棚を突破できた。岸壁を回ったところで、陽が差し始めて、周りの風景を魔法がかかったように、鮮やかな天然色に変えていった。

 ところが、岸壁の岩棚よりも大変なスポットがさらに先に待っていた。再び赤土の丘が続いていたのだが、崖っぷちに刻まれたトレイルは連日の雨で滑りやすく、一歩一歩慎重に歩いていかなくてはならない。しかも侵食し細くなった場所が数か所もあった。その細くて泥だらけの部分に大きな岩が飛び出していた。その岩を回り込むためには岩に抱き付き片足ずつ慎重に超えていくしかない。パックの重量が岩につかまる体を下に引っ張る…。はるか下には荒くれた海。もしも足を滑らしたら、この赤い壁を一気に滑り落ち、波打つ海にまっしぐらだ。赤土の壁からチェーンのように突き出している木の根をつかんで岩を回り込んだ。果たして、こんな木の根に自分の命を預けていいものかと思ったが、何とか危機を逃れ、無事通過できた。

 長い長い10マイル(16㎞)のトレッキングを経て、ついにカララウ渓谷の絶景が眼下に現れた。三方を切り立った緑の岩山に囲まれて、赤土の丘が海岸に向かって下っていく…。緑のじゅうたんが谷を埋め尽くし、瑠璃色の海が白い波を打ち寄せる…。太陽の光が降り注ぎ、そこはまさに楽園の光景だった。

 今まで歩いてきたトレイルを振り返る…。

 丘を下り、緑の生い茂る谷を横切って、ついにカララウ・ビーチへ到着!あまりの美しさに、パックを降ろしてしばし撮影に取りかかった。この地点から、約1.5㎞のビーチが続く。長いトレイルの終点にようやくたどり着いた。

 キャンプを設置を終えると、すでに陽が傾き始めていた。赤道近くの日没はあっという間だから、撮影の準備を始める。暖かい光が、岩山を染めていく…。

冬の間、カウアイ北部の海岸にはビッグウェーブが頻繁に押し寄せる。海岸線に打ち付ける大波を夕日をバックに撮影できるポイントを選んで、セッティング。この季節の日没は南西になるから、太陽は崖の向こうに沈むことになる。ここまで背負ってきた三脚の活躍の場だ。濡れた砂の上に、機材の重さで沈む三脚を安定させるのも至難の業だ。慎重に構図を決めて、岸壁に大波の押し寄せるのを待っていると、こちらにも波がやってくる…。機材が濡れないように、三脚にカメラを乗せたまま走る…。波が引くとまた場所を選んでセッティング、こちらに波がやってくるまでに数枚撮影、そしてまた退却…、の繰り返しで何とか数枚気に入ったものが取れた。

夕日が断崖の向こうに隠れ、まさに沈む直前に空をオレンジ色に染め上げた。そして、ゆっくりと紺色に変わっていった。日没直後、辺りは淡い紫色の光に包まれていった…。闇が広がると、空一面に星が散らばり、静かなビーチに押し寄せる波の音だけが響いていた。

翌日、カララウ渓谷の奥深くに入り、ジャングルの中に隠れ住むヒッピーたちの村を探しに出かけた。カララウ渓谷の写真は次回のブログに掲載予定。次回のブログは、今度こそ2週間以内にアップするので、是非ともよろしく。