2010年7月13日火曜日

グレーシャー・ベイ国立公園

3週間にわたるフェリーでの旅を終えて、ついに最終目的地グレーシャー・ベイ国立公園にたどり着いた。到着したその日は南東アラスカには珍しく快晴だった。
ここグレーシャー・ベイでこの夏を過ごすことになる。滞在先のバートレット湾(Bartlett Cove) には国立公園のビジターセンターやロッジなど観光の拠点が集中している。グレーシャー・ベイはアメリカ本土の国立公園とは違って、広大な保護区の大部分は未開のままの原生林、氷河を抱く険しい山脈が広がっていて、観光向けの道路などはない。南東アラスカの例にもれず、雨が多いため、深い森の木々にはベールのようにコケがおおいかぶさり、じゅうたんのような厚いコケが台地を敷きつめている。ウィスコンシン氷河期にはこの南東アラスカ一帯は大氷河に覆われていた。大氷河は次第に後退し、氷河の溶けた湾にグレーシャー・ベイを生み出した。大氷河は数多くの氷河に分散され、その大部分は現在でも少しづつ後退を続けている…。グレーシャー・ベイの湾内には16の氷河が今でも存在している。氷河の後退した大地には少しづつ植物が育ち始め、やがて森がその一帯をおおっている。

グレーシャー・ベイ内に残る氷河を訪れ撮影するためには、船やカヤックなどで約30キロほど湾内を北上することになる。6月上旬のよく晴れた日に、船で氷河を訪れる機会に恵まれた。青空の下、普段は雲の中に隠れているフェアウェザー山脈が白く輝き、標高4,600mのフェアウェザー山が全貌を現した。

グレーシャー・ベイにはアシカやアザラシなどの野生動物や海鳥などが豊富だ。海鳥の群れがボートを追って飛び続ける…。

グレーシャー・ベイの西側、ウエスト・アームの行き止まりには、フェアウェザー山から流れ落ちるマージェリー氷河がフィヨルドの海に注いでいる。眼前には氷河の巨大な白い壁が立ちはだかっている…。

わずか数百年前までに湾内をおおっていたグランド・パシフィック氷河は現在では後退し、黒い堆積物に覆われてしまっている…。

ジョン・ホプキンス氷河は今でも活発に動いており、大小さまざまな氷山を絶え間なく生み出している。アザラシの繁殖期となっているこの時期、ボートは氷河の近くによることを禁止されているので、遠くからその雄大な姿を眺める。

ザトウクジラの死骸が海岸に打ち上げられていた。数週間にわたり熊や狼などの野生動物が死骸の周辺に現れ、鯨の肉をあさっているという…。

フェアウェザー山の後ろに沈む夕日…。

グレーシャー・ベイの序章となる素晴らしい一日だった。氷河の周辺で数日を過ごしてみたい。

2010年7月8日木曜日

ゴールドラッシュの面影の残る町・スキャグウェイ

ピータースバーグをフェリーで北上すること約20時間、フィヨルドの海の両側に険しい雪山が迫るLynn Canal(リン海峡)を通過し、ヘインズ経由でスキャグウェイに到着した。インサイド・パッセージ最北の町、ゴールドラッシュの面影の残るスキャグウェイは人口900人弱の小さな町だ。険しい山に囲まれたせまい平地に作られた町にはゴールドラッシュ時代の古き建物が修復され保存されている。スキャグウェイもケチカンやジュノーと並び、大型クルーズ船の寄港地となっているため、夏の間は小さな街の通りが観光客で埋め尽くされる。

スキャグウェイの主な部分はクロンダイク国立歴史公園に指定されている。ゴールドラッシュ時代の建物の中には、土産物屋やカフェなどが入り、ゴールドラッシュ時代の数倍にも上る観光客でにぎわっている。国立公園レンジャーによるウォーキングツアーに参加。

ゴールドラッシュ時代、3万人にも及ぶ人々が金鉱を求めてスキャグウェイを出発し、真冬の厳しい山道を越え、カナダ・ユーコン準州ドーソン・シティを目指した。1900年夏にはホワイトパス&ユーコン鉄道が完成したが、すでにゴールドラッシュは終わりに近づいていた。現在ではこの鉄道はスキャグウェイ観光の目玉となっており、海抜900mのホワイトパスまでの雄大な風景を車窓から楽しむことができる。

新緑のまぶしいスキャグウェイから列車は少しずつ標高を上げ、森を抜け、あたりは高原の雪景色に変わっていく…。ホワイトパスはまだ冬の終わり、大小さまざまな湖の大半はまだ氷におおわれていた。

終点フレーザー湖(Frazer Lake)に到着。短い休憩後、列車はスキャグウェイに折り返す…。

スキャグウェイのダウンタウンからのトレイルを登ることしばらく…。視界が開け、リン海峡、そしてチルカット山脈の雪山が見渡せた。夕日がゆっくりと沈むころ、山脈の頂上とその後ろの空が淡いピンク色に染まった。

日没の頃、大型クルーズ船が一隻づつスキャグウェイを去っていく…。スキャグウェイの町が静けさを取り戻す。

3週間にわたる南東アラスカの旅が終わりに近づき、ジュノーを経てついに最終目的地グレーシャー・ベイ国立公園に到着する。

2010年6月29日火曜日

アラスカの漁村・ピータースバーグ

ケチカンからフェリーで北上すること約10時間、途中ランゲルを経由し、小さな港町ピータースバーグに到着した。ピータースバーグ近郊の水路が狭いため、大型クルーズ船は停泊しない、というかできないのだ。観光客向けのみやげ物店やおしゃれなレストランの立ち並ぶケチカンやジュノーとはまったく雰囲気の違う小さな町だ。

人口わずか3,000人のピータースバーグの主な産業は漁業で、港には釣り船がところ狭しと停泊し、住民のほとんどは何らかの水産業に係わっている。この小さな町はもともとノルウェイから移民した漁師たちによって開かれた町だ。

町中には今でもノルウェイ・スタイルの住宅がたくさん残っていて、ノルウェイ系の漁師たちが代々同じみの海に釣り船を出している。

ピータースバーグも南東アラスカの例にもれず雨が多いとは聞いていたものの、到着したその日はこの旅最高の夕焼けに恵まれた。普段は雲の中に隠れているカナダ国境沿いの高峰デビルズ・ムも姿を現していた。

トンガス国有林の森が小さな町の後ろに迫るピータースバーグには湿原が目立ち、深い原生林に囲まれたケチカンと比べてオープンな感じがする。ここではじめて小さな青い花“忘れな草”(Foreget-Me-Not)を見かけた。忘れな草はアラスカの州花だ。

道端に咲くその花を撮影していると、沢から突然小さなカワウソが顔を出した。カワウソの方もびっくりしたらしく、一目散に逃げていく…。近くの巣穴らしい木の根元に隠れて、こちらの様子をうかがっている。再び姿を現すのをしばらく待ったけれど、すばやく飛び出し、見事にどこかへ身を隠してしまった。

翌日、友人の船でフレデリック海峡を渡り、小さな入り江に入る。干潮で現れた海岸線の藻の色が美しかった。

ラコンテ氷河から溶け出した氷山がいくつか海峡に浮かび、太陽の光を浴びてアクアマリーン色に輝いていた。

港に戻ると日が出ているうちにノルウェイ移民の建物を撮影して歩いた。その日の夕日は、ピータースバーグに到着した日ほど赤く染まらなかったけど、十分美しかった。

次の目的地は、ゴールドラッシュの面影の残るスキャグウェイだ。

2010年6月21日月曜日

アラスカ"一番目の都市" ケチカン

今回の旅で最初の立ち寄ったのは、アラスカ最南の港町ケチカン。深い森に囲まれた、アラスカ先住民文化の色濃く残る町だ。アメリカ最多の降雨量というケチカンはいつも灰色の雲におおわれている。近年では大型クルーズの寄港地もひとつとしても有名で、クルーズ船の停泊中は町中が観光客であふれる…。

観光客で込み合う町を後にし、Deer Mountain へハイキングに向かった。苔に覆われた深い森は新緑の季節・・・、様々な緑が森中を覆っている。台地をおおう苔までが明るい黄緑だ。ちょうどこの時期は水芭蕉に似ている“スカンク・キャベツ”の花が水辺に沿って、黄色い大きなラッパのような花を咲かせていた。スカンク・キャベツとはよく言ったものでこの花からは独特の匂いが漂っている。

岩をおおう緑の苔を流れる小さな滝は、日本庭園を想わせるものがある…。

次の数日間はアラスカ先住民の文化を訪ね歩いた。雨の中訪れたトーテム・バイト州立歴史公園では、幸運にも他の観光客にまったく出会うこともなく、静かに一人で森の小道を歩き、トーテムポールの立ち並ぶ海辺を散策できた。ひと気のないクランハウス(先住民の集会小屋)にただ一人座っていると、不思議にも神秘的なものを感じてしまう。また、浜辺からトーテムポールの立つ村を見ると、その昔旅人が海からカヌーを漕いでやってきて、小さな集落に出会ったような錯覚を覚えてしまう。

アラスカ先住民の子孫たちは、顔立ちや体系が驚くほど日本人に似ているのだ。はるか昔、日本人を含むアジアの人々の祖先が氷河期に海を渡り、アラスカに移住したという説があるが、それが納得してしまうほど似ているのだ。公園を後にするころ、クルーズ船からやってきた観光客の一団が大型バスからぞろぞろと降りてきた。あたりの雰囲気が一変するのを感じた。

トンガス・ハイウェイの終点、Settlers Cove(セトラーズ湾)のトレイルを歩いた。コケに覆われた深い森は南東アラスカの大部分を占めており、一帯がトンガス国有林に指定されている。
森の中を流れ落ちる滝に遭遇…。

ひと気のない海岸線。干潮で海藻類に覆われた岩が露出している…。

午後8時過ぎ、夕日がべトン島の後ろに沈んだ。

翌朝は再び干潮で、無数の海の生き物が浜辺に現れた。様々な色・形のヒトデ…。特にサンフラワー・スターと呼ばれる20本以上の足を持つ大型のヒトデが数え切れないほど露出していたのには驚きだった。

ケチカンはアラスカ先住民文化と、自然が調和した美しい町だ。次はケチカンから北へ約150キロの小さな港町ピーターズバーグへ向かう。

2010年4月30日金曜日

レイク・タホ―4月の雪景色


4月上旬、すでに春の気配が漂うワイオミング州ジャクソンホールを引き上げ、一年ぶりにレイク・タホを訪れた。友人に会ったり、ギャラリーのオーナーとミーティングをしたりと予定がぎっしり詰まっていたものの、美しいタホの自然の中での撮影を期待していたのだが・・・。ところが、タホに着くと同時に雪が降り始め、一晩中降り続いてしまった。一晩どころでは収まらず、ほぼ丸一週間降り続きあたりはすっかり雪景色。雪が降ってもすぐに青空に戻るはずのタホが、一週間ずっと厚い雲に覆われてしまった。日の出や夕日の撮影どころか、青空の下でエメラルド色に輝く湖の撮影すら出来ずにいた。

雪景色のタホの美しさに改めて感動はしたものの、やっぱり太陽が恋しい…。それでも、ただ1日だけ太陽がほんの少し顔を出してくれた。この機を逃すものかと、Sand Harborへ出かけた。Sand Harborのビーチには丸い岩が転がっていて、いかにも"タホらしい"風景だ。お気に入りの撮影場所のひとつだ。夕日の瞬間、空が朱色に染まることを期待しつつ、カメラをセット・・・。地平線近くの雲が赤く染まるか、逆に夕日を灰色に隠してしまうかきわどいところだ。灰色の雲が勢いを増してきた。それでも太陽は雲の間から金色の光を照らし出し、レイクをゴールデン・カラーに輝かした!神秘的な美しさに感動しながら、シャッターを切った。
一年ぶりに訪れたBlack Pearl Gallery。このギャラリーには2008年からお世話になっている。
レイク・タホでの1週間の滞在はあっという間に終わってしまい、現在シアトルにてワイオミングからの写真の編集中。シアトルはすっかり春、新緑と桜の季節だ。束の間の休憩、さまざまな雑用を終え、5月中旬からアラスカに向けて出発。今回はフェリーにて南東アラスカの港町、ケチカン、ピータースバーグ、スキャグウェイを経て、アラスカ州都ジュノーよりグレーシャー・ベイ国立公園へ向かう。グレーシャー・ベイに約3ヶ月滞在予定だ。

2010年4月15日木曜日

早春のグランド・ティトン

3月中旬のグランド・ティトンはすでに春の陽気。今年は雪が少なかったけれど、春の訪れも一月ばかり早いようだ。すでにジャクソン周辺は雪が溶け、町中に自転車が出現。グランドティトン国立公園内も、まだ雪は残るものの、雪の間をぬって小川が溶け出している。日差しはすっかり春のものだ。
グランド・ティトン最大の湖、ジャクソン・レイクはまだしっかり凍っている。スノーシューにて、凍った湖の上を歩き、湖に浮かぶ小島や入り江を探索するのは冬の間にしかできない経験だ。

広大なジャクソン・レイクの他にも大小さまざまな湖が点在する。タガード湖 (Taggard Lake)やブラドリー湖 (Bradly Lake) などはティトン山脈の真下にあるから、夏の間はティートンの峰きれいに映しだすだろう・・・。この小さな湖群はスノーシューやクロスカントリースキーのトレイルとしても人気が高い。
湖を結ぶ小さな渓谷はすでに解け始め、雪の下を流れている・・・。すでに冬眠を切り上げたクマの足跡が湖の周りに残っていた。
ティトンの山並みとスネーク・リバー、お気に入りの場所のひとつ。

2010年3月26日金曜日

ティートン山脈と開拓時代の納屋

ティートン山脈の山並みをバックにしたこの納屋はCMやポスターなどですっかり有名であり、写真家にはお馴染みのスポットだ。例に漏れず、この風景を撮影するのは数多くの目標の一つだった。特に雪景色の中、朝日を浴びてピンク色に輝く峰を撮影する機会を待っていた・・・。

ここワイオミング州グランド・ティートンは雪が多く、この納屋のあるAntelope Flat Roadは通常2-3mにも及ぶ雪に埋もれ、当然ながら道路は閉鎖される。例年の40%以下という雪の少ないこの冬、3月になるとすでに雪が解け始め、中旬にはすでに道路はオープン!それでもまだ雪景色なのだ。
3月中旬のある朝、日の出前にカメラをセットし、美しい朝焼けになることを願いつつ凍えながら待つ・・・。幸い星が出ていて、快晴は間違いなしだ。午前7:30、東の空が淡いオレンジ色に染まり、空全体が次第に明るくなり始めた。そして、ティートンの峰が淡いピンク色に照らされだした。ピンク色の光は徐々に広がり、やがて山全体を覆った・・・。

わずか数分間の夢のような朝焼けが次第に薄れていき、日の出後の暖かいオレンジ色の光が辺りを包み始めた。
納屋のまわりに残る建物の撮影を始めた・・・。この建物"Mormon Row”は1920年代に開拓者によって建てられたものだ。

ティートン山脈の絶景の前に残る、アウトハウス〔トイレ〕・・・。
ここワイオミングを去る日が近づいてきた・・・。この次は夏の緑に包まれたグランドティートンを撮影したい。